魔法少女山田 ─消費されたネットのおもちゃ─

2025年8月15日金曜日

TXQ FICTION テレビ東京 ドラマ

t f B! P L
独断と偏見とちょっとしたスパイス  Vol.96


魔法少女山田 
─消費されたネットのおもちゃ─











※ネタバレ注意。 また、本レビューについては独自の解釈が含まれています。






ネットには平成のニコニコ動画全盛期から脈々と恐ろしいカルチャーが残っている。

それは「やばい人を晒しものにする。」という地獄ネットミーム文化。

自らの意志で動画投稿を行い、その内容故に動画のMAD素材化してしまった哀れな者をいれば、スマホのカメラ機能の向上により、意図しない形で動画を撮影されてしまい、結果ネットミームになってしまう者もいる。

これは個人的に思っている事だけど、ニコニコ動画がここまで衰退した理由の一つに、こういう人たちの晒しの場になってしまった結果、アングラな動画サイトのイメージが強くなってしまったのは大きいと思う。

ニコ生とか社会の闇鍋みたいなサイトってイメージが強かったしね。

ユーチューブがまともとも言わないけど、まともそうな人が割合的に多いっては思う。
「クリーン」っていうイメージは大事。

私はネットのミームとして消費してきた多数側の人間。
だからこのカルチャーを批判する資格は無いって思う。

ただ、ネットのこういったカルチャーの対象になっている弱者は、社会の福祉が必要な人間でありながらも、「救われて欲しい。」と思われない姿や振る舞いをしている。

福祉がどれ程困難な仕事か。周知される切っ掛けにはなったと思いたい。


さて今回は、そんな弱者を食い物にした、醜悪な物語を取り上げる。



今晩は『魔法少女山田』を取り上げます。

本作はテレビ東京が不定期で行っているモキュメンタリーシリーズTXQ FICTIONの第3作目に当たる。全3話。「TXQ FICTION」は大好きなシリーズで、しかもテレビ放送後にはYouTube等のプラットフォームで公式配信される事もあって、毎回必ず見る様にしている。

「モキュメンタリー」とはドキュメンタリー風にまとめられた作品の事を指す。

私自身が今モキュメンタリーの作品にハマっているので、直近の本ブログではよく取り上げられる事の多いジャンルになる。ちなみに初作品になる『イシナガキクエを探しています』と前作の『飯沼一家に謝罪します』は本ブログで過去に取り上げているので、良かったら見てみて欲しい。


イシナガキクエを探しています  
─謎を嗜み、謎を恐れ、謎を受け入れる─ https://dokudantohenkentotyoxtutositasupaisu.blogspot.com/2025/05/blog-post.html

 

飯沼一家に謝罪します  
─モキュメンタリー作品のマイルストーン─ https://dokudantohenkentotyoxtutositasupaisu.blogspot.com/2025/04/blog-post.html


今回のシリーズの特色としては、過去の2作は霊や儀式と言った要素を含んだホラー作品としての特色は強かったのだけど、今回はそう言ったホラー要素を排除して、人間の恐ろしさに的を絞った作品に仕上がっている。

早速あらすじに入ろう。


物語はある青年と第三者との電話を通したやり取りから物語は始まる。

青年の名前は貝塚陽太という。彼はネット上でバズった話題の曲「唄うと死ぬ歌」について調べている。そのきっかけは彼がある日サブスクで見たバラエティ番組がきっかけだった。

魔法少女を極端に恐怖する女性が魔法少女を克服すると言った内容で、最終的に十文字幻斎(本人役で出演されている。)の催眠術を使って魔法少女を克服していた。彼女が催眠術にかかった際、彼女がハミングしていた曲。それこそが流行している「唄うと死ぬ歌」だった。

そして貝塚は何故かこの曲について、知っていた事を思い出した。貝塚はこの歌を調べていくにつれて、あるブログにたどり着いた。そこにはある一本のドキュメンタリー映画と、魔法少女のコスプレをしてネット配信を行っていた一人先生の存在が浮かび上がった。



今からでも遅くない。まだ見ていない人はブラウザバック推奨。
特に初代SWOとかが好きならば特に。

酷く醜悪で、グロテスクで、嘔吐したくなる様な、残酷な映像作品。

考察要素が多すぎて考える事が多いがメインテーマが純愛の『イシナガキクエを探しています』や、モキュメンタリー作品のマイルストーン的作品で、ある意味芸術的美しさまでラストカットを昇華させた『飯沼一家に謝罪します』とはまた違った変化球の作品で、ネットの変な人を晒し物にする地獄ネットミームを醜悪に描いた作品の様に思った。

さっき書いた通りこの映画にはホラー要素が排除され、人間のグロテスクさを強調して作られた作品であり、物語も過去作品と違ってよりシンプルにまとめらている。
言えに考察要素が少なく、考察の面白さは前作よりも落ちている。

第一話は貝塚が見たテレビ番組の切り抜きに多くの尺を取っていたので癒し回。
芸人コンビのトム・ブラウンが普通に面白くって笑った。
今思うとこのアンバランスさが本シリーズの大きな特徴なのいかもしれない。


第2話では貝塚が手に入れたドキュメンタリー映画「魔法少女おじさん」が流れる。
2009年に制作されて映画で、そこで登場するのが山田正一郎。故人。
元々は小学生の先生をされていた人なんだけど、不登校児童の家に毎日訪問し保護者の反感を集めたり、いじめ問題の指導でもめたのが原因で教職を退職した。

今は清掃のアルバイトの傍らで、ニコ生主として魔法少女のコスプレをして授業の配信を行っている。教育に対して熱心で、人としては善人だけど、やる事成す事が客観視する事が出来ず、考え無に気持ち悪い事をやってしまう。

そんな二面性を持った山田に目を付けたのが、監督の三田愛子。三田監督が密着取材を続けた結果生まれのが映画「魔法少女おじさん」だった。


第2話は気持ち悪い。
だって明らかに三田監督は対象の山田に介入しているし、恣意的編集や改ざんを行っている様な怪しさがあって、もはやドキュメンタリーと言えるものでは無ない。

精神的にやってしまった気持ち悪いおじさんをネットのおもちゃ感覚で弄んで、雑に捨てた。そんな内容に思えた。

ネットで永遠と行われているネットのおもちゃとしての消費。
ミームとして扱われ、飽きられ、忘れ去られていく。
このネットの営みを醜悪に描いていた。

山田死去後、2011年に行われた映画「魔法少女おじさん」山田正一郎さん追悼上映会なんて、ネットのノリをそのまま現実にやったような、そんなリアリティのグロテスクさがにじみ出ている。


最終話。暴走する貝塚と、全ては三田の手の内で踊ろされていた視聴者。
そして、気色の悪い後味だけが残された。

どんでん返しのシナリオが好きならば、よりグッとくるだろう。


考察する要素が少なめな反面、最終話でも改ざんや、事実では無く再現シーンでは無いかと考察されている場面があり、三田の人間性を疑う。

ただ、三田ってネット民の総意の擬人化みたいな存在に思うのよね。

だからこんな残酷でグロテスクな事も平気で出来るし、恣意的な映画を作れる。
ただただ気持ち悪いのだけど、でも一方で彼女を完全に否定出来る人もいない。

SNSでは誰でも共犯者に出来る時代なんだなって思う。





やっぱ「TXQ FICTION」は挑戦的なシリーズだなって思った。
夏だし、こういう時に敢えて定番のジャパニーズホラーじゃなくて、
人の怖さに焦点を充てた事も流石でした。

じっとりと来るような不快さと気持ち悪さ。
でも、作品そのものがネットカルチャーへのアンチテーゼの様にも感じる。
考えすぎかどうか、皆様の判断に任せたいと思います。

人を選ぶ作品にはなっていますが、お勧めしたい作品です。
良かったら見てみてください。



公式サイト


2025年 8月11日現在 YouTubeにて全話公式配信中
いつまで配信が残っているか未知数なので、気になった方はお早めに。




自己紹介

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毎週金曜19時更新。 目に留まった創作物にレビューを書きます。批評家では無いので、凝った事は書きません。文章は硬いめだけど、方針はゆるゆるです。よろしくです。

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