独断と偏見とちょっとしたスパイス 91
イシナガキクエを探しています
─謎を嗜み、謎を恐れ、謎を受け入れる─
映画.COMより引用
近年書店に行けばわりと特集コーナーが作られる程に話題のモキュメンタリー。私もモキュメンタリー作品がマイブームになっていて、定期的にチェックするようになっている。今年は当サイトでも取り上げた『近畿地方のある場所について』がついに実写映画化されるという事で、モキュメンタリージャンルの更なる盛り上がりに期待が高まっている。
正直個人的に映画PVは解釈違い。原作のあの空気感が上手く表現されていない様に感じたが、まだ見ていない作品を批判するのも違うし、ちょっと様子見。原作原理主義の厄介オタクみたいなムーブをしてしまいそうで自重している。
今年の8月8日公開という事で、できれば映画館で見て、このブログにて取り上げたい。ただ映画館でホラー映画とか見れる気がしないし、何なら原作小説は小説の枠組みを超えるぐらいに怖かった作品。原作再現されていたら、怖すぎて見れない。複雑な心境。モキュメンタリーというジャンル自体がとてもニッチなだけに、ブームが続いている内に「定番」になればいいなと思う。絶対的な供給数が下がったしても、作品が供給され続ければ、私はいつまでもモキュメンタリーが見れる。ハッピー。という訳で今週も私のモキュメンタリー語りに付き合ってもらおう。
モキュメンタリー沼に君も沈もうねぇ。
今週は『イシナガキクエを探しています』を取り上げる。本作はテレビ東京発のモキュメンタリー番組「TXQ FICTION」の第一作品。本サイトでは先に第二作目の『飯沼一家に謝罪します』を取り上げているので、順番は前後している事になる。
2024年の4月から始まった「TXQ FICTION」は完全不定期でテレビ東京の深夜帯に連続放送されている番組。まだ放送は2回のみと少ないけど、テレビ局発という事で群を抜くリアリティと多くのユーザーと同時視聴出来るというテレビ番組の強みを生かし、SNSを通じて話題を呼んでいる。
そしてありがたい事にYouTubeでの配信も行っていて、テレビ東京が見れない地方民でも全話見る事が出来る。やっぱテレ東って何かとSNSで話題になる一方、地方では見る事が決して出来ないから話題についていけないという疎外感が凄いよね。だからこうやってネットで公式配信が見れるのは凄く良い取り組み。違法アップロード対策にもなるしね。
『イシナガキクエを探しています』は30分番組(本編は23分程)全4話。
3話までは地上波放送され、最終4話のみTVerでの配信となった。最初の3話は「特別公開捜索番組 イシナガキクエを探しています」が放送された。その中でも最初の2話は生放送で出演者の裏にはオペレーターがスタンバイして、視聴者からの情報提供を随時受け付けている。どこかで見た事のある感じ。調べてみるとTBS系の『緊急!公開大捜索SP』がヒット。他にも朝日テレビ系列の『奇跡の扉TVのチカラ』もある。この手の番組って今でこそあまり見かけなくなったけど、平成の頃は定期的にやっていたよね。結局テレビで放送された方々は見つかったのか結局わからずしまいだけど。閑話休題。最終4話はこの失踪事件をドキュメンタリーとしてまとめる。
『イシナガキクエを探しています』はある老人・米原実次氏が切っ掛けに番組が始まった。番組放送時にはすでに故人となった人物で、最期まである女性を探し続けていた。そしてテレビ東京は彼の意志を引き継ぐ為に「特別公開捜索番組」として調査に踏み切った。行方不明者の名前はイシナガキクエ。1969年失踪。当時22歳の女性。物語の舞台は2024年なので、55年前に失踪した事になる。地域住民からも彼女の事は忘れ去られ、米原氏は地域から半ば鼻つまみ者扱いをされながらも彼女を探し続けている。この不可解な謎が多いこの事件を、視聴者とテレビ東京は迫る。
やっぱテレビ局発のモキュメンタリー作品とあって、そのリアリティの高さは言うまでもない。やっぱりモキュメンタリー作品とテレビ局の相性がとてもいい。創作にありがちな嘘臭さを、ここまで脱臭できるのは本当に凄い。フィクションってそれこそ虚構なんだけど、虚構である事を観客が気がついたら一気に冷めてしまうよね。いかに嘘を本当の様に。フィクションを現実に変えるリアルさの追求が創作の肝だと思うのだけど、そういう意味合いではもう極まっている。役者さん達には決して芝居をさせない。一般人の様な、テレビ慣れしていない自然な演技をさせている点もポイントだろう。
正直テレビ局が「モキュメンタリーの正解」をバンバン発表していたら、何かもうジャンル自体は衰退するじゃないかって思う。モキュメンタリーファンの求める質は確実に上がってしまった。
次作の『飯沼一家に謝罪します』と比べると、
本作の方がより人を選ぶような「尖がり」を感じた。
本作は受動的に作品を見る事が出来ない。ただテレビを眺めているだけだと、本当に意味も解らないまま物語が終わってしまう。そこには何の理解も、感動も無い。見比べてみると『飯沼一家に謝罪します』はとても分かりやすさに注意して作られた作品だった。物語の要所を分かりやすく示すと共に、事件の情報を8割程公開していた。誰でも事件の大まかな経緯が理解し、説明できるぐらい丁寧だった。モキュメンタリーでありがりな、情報不足によるモヤモヤ感も無く、考察は半ば答え合わせみたいになっている。
だが今作は、あまりにも謎へのウエイトが大きく、より難解さが増した作りになっている。ちゃんと1話事に考察を加えないと、最後まで意味不明のまま終わってしまう。モキュメンタリーとしての内容の濃さは本作の方が強い。一つ一つの出来事に考察する意味があり、情報量も多い。ちゃんと情報を組み上げていく必要がある。それを面倒だと思った人は絶対に合わないし、逆に物語を考察する事が楽しいと思える人は凄く楽しい体験が出来るだろう。
この作品はちゃんと地上波放送時に見てSNSでつぶやきながら考察したかった。リアルタイムで考察する。一種の代替現実ゲームみたいな体験ができたはずだ。一方で私は物語に置いて行かれた口。だからラストカットの意味が最初ピーンとは来なかった。だから本作の考察をまとめたブログ(notoに多い。)で物語を補完した感じ。次作以上に物語内の出来事はぼかされているので、考察も意見が割れていて面白かった。物語は実はすごくシンプルだった事には驚いたし、でもそれが決して正解かどうかも分からない。答えはあっても正解がないこの曖昧さが心地よかった。
作品が面白いのもそうなんだけど、例えばSNSやブログ、動画サイトなどで他の視聴者がこの作品が取り上げられる事で、考察の数もどんどん増えていく。そして、それを見た人が新しい考察を考え、情報発信を通して作品が広まっていく。漫画等のライブ感のあるコンテンツではしばし起きるこの盛り上がりっていいよね。できれば地上波放送時にこの体験がしたかった。自分はいつも話題が終わって一時経ってからコンテンツを見る事が多くって、旬の作品を旬の内に見るのは少ない。そしていつも後悔ばかりしている。
そろそろ「TXQ FICTION」の第三作品目が見たい。次はどういうアイデアで私達を悩ませてくるのか。楽しみになっている自分がいる。完全に不定期という事もあって次回は10年後も全然ある訳だし、打ち切りが決まっている可能性だってある。でもできれば次回作が見たい。次はリアルタイムで追いかけられる様に準備して身構えたいって思ってる。SNSを要チャックだ。
公式サイト
全話YouTubeにて配信中、良かったら要チェック。
イシナガキクエを探しています(1/TXQ FICTION
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