世の中の創作物にあーだこーだ言う。
『独断と偏見とちょっとしたスパイス』
第2回は、中世と現在の思想の狭間で苦悩する国・サウジアラビアの過去と今を描く。
岩波新書より2005年に発売された
『サウジアラビア―変わりゆく石油王国』 保坂修司
サウジアラビア。砂漠にある黒い黄金の国。
緑の国旗の剣が示す通り厳格なイスラム国家ながらも、莫大なオイルマネーで砂漠の民はついに砂上に摩天楼を築き上げた。そしてそのオイルマネーで王族はとても煌びやか。先進国では真似できない豪華絢爛な立ち振舞いができる。
──マルコポーロは東方見聞録の中で日本を黄金の国・ジパングと言った。それから数百年。いくらネットで他国の情報が調べられる世の中になったとは言え、全く関心の無い国に対してはいくらでも勝手な想像を膨らませてしまうのが人間の性。東方にある“現代の黄金の国・サウジアラビア”そんな夢物語の世界の様なイメージがあった。
ぶっちゃけ中東というと血生臭いが「オスマン帝国!」「オリエント!」って言うと、何かロマンあるよね。中華やアメリカとは違ったあの華やかさ。ペルシャ絨毯の独創的なガラ。……時代も場所を違うし、色々ごった煮みたいなイメージ像だけど、これぞ外国人の勝手なイメージだ。日本語が読めるサウジアラビア人をこれを見て笑うのだろうか。
ただ、現実は違った。
宗教。経済。教育。失業率。政治。外交。数々の問題を抱えた極めて現実的な国のひとつだった。そして、どれか1つの問題を取り上げても、サウジアラビアの街を砂上の楼閣へと変貌し兼ねない深刻な問題であった。
そんなショッキングで、またある意味スリリングなサウジアラビアの歴史。中世的思想と現代的思想が衝突し、国その物が混乱する情勢。そして、アルカイダの様な過激派の誕生は如何にして生まれたのか。『サウジアラビア―変わりゆく石油王国』を読みながら、今一度勉強しよう。
この本は基本的なサウジアラビアの歴史を振り返りながら、現代(2005年当時)まで脈々と受け継がれた数々の社会問題を解説する。まあ、早い話がサウジアラビアの現代史本だ。
内容を簡単にまとめると、以下の通りだ。
・サウジアラビアの起源とサウード家
・石油依存経済の限界とその脱却
・人口爆発による歪な人口比率と若年層の失業率
・宗教対立による国内外の影響とアメリカ
・過激思想の原点、排他的宗教教育のその結末。9・11事件への系譜
・王族による政治の限界とリベラル派による民主化運動
・現代的思想がサウジアラビアに根付くのか
どれもサウジアラビアが抱える社会問題である。しかも日本と違うのは、先ほども書いた通りどれか1つを蔑ろにでもしたものならば国が転覆し、シリア内戦の様な事になりかねない。という事だ。まさに薄氷を履むが如し政権運営を強いられるサウード家。宗教勢力との均衡を保ちつつ、部族や王族と上手く手綱を引っ張りながら、アメリカとの関係を強化しなければならないという。しかも中東は不安定で、反政府勢力が海外で活動している。現代的思想(民主主義や女性の社会進出)の広がりも見せ、問題はさらに絡み合い、複雑になっている。
ネットの掲示板で政治は利権調整を行うものだ。という書き込みを見たが、この国ではそれは中々難しい。結局、ありがちな血生臭い弾圧という鞭とオイルマネーの飴でまとめているが、一歩先は闇の中。明るい未来が想像できない様は、この国の現状を表しているのかもしれない。
入門書としては最適な本だ。内容は端的で、文章には起伏があり読みごたえがある。「起伏」と書くと伝わりにくいが、起伏の無い文章は歴史の教科書なんかを想像してもらえばいい。漢字やワードの羅列で、全然面白くも何ともない物。それが起伏の無い文章だと思う。サウジアラビアの歴史に興味関心を引かせ、しかも大まかな現代史が解る。それこそ何気なく買って読んだ自分としては、大変有難い事でもある。
そして、この本は衝撃的だった。「現代の黄金の国・サウジアラビア」という幻想は脆く消え去った。勝手なイメージで想像する。という危険さが身に染みた一冊だった。ヨーロッパの人たちは東方見聞録を読んで日本を黄金の国と言ったが、それと大差の無い発想をしていた。いかにイメージや想像。安易な情報に振舞わされないようにするか。今一度考えなければならない。
今現在(2017年10月23日)Amazonにて新品が発売中。
https://www.amazon.co.jp/サウジアラビア―変わりゆく石油王国-岩波新書-新赤版-964-保坂/dp/4004309646
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