『独断と偏見とちょっとしたスパイス』
第一回は、アフリカの現状を現地人の立場から描いた硬派なルポ。
『アフリカ・レポート―壊れる国、生きる人々-』
松本一仁
発売は2008年。岩波新書より発売された。
歪な国境線。終わらない戦争。未発達な政府。
「不毛な大地、アフリカ」というイメージを、たぶん一生背負って生きている事になると自分は思っている。外務書のホームページは黄色か橙か赤という有様で、普通の人間ならば家族や何らかの人に渡航は呼び止められるのがオチだ。ユニセフには自分が小学生の頃から「アフリカへの寄付のお願い」という文字が今だ消えず、そのお金は一体どこの何に使われ、アフリカは果たして救われたのか。募金箱の100円は何を生んだのか。ずっと気になっていた。それでも学生時代は考えも無く募金していたが、今ではその不毛さに嫌気が差し、そもそもあまり募金出来るほど裕福ではないが、もしも募金をする時はアフリカではない、違う事に募金するように心がけている。それは非道かもしれない。しかし、遠くの人間より近くの人間を救った方が有意義だ。自分はそう思う。
さて、そんな人間はブックオフで見つけた本を手に取った。
『アフリカ・レポート―壊れる国、生きる人々』
そもそも自分はアフリカを知らない。何にも知らない。アフリカとは何ぞや。なんて聞かれた日にはたまらない。そこで、買って読んでみる事にしたのが始まり。ちなみに岩波新書を読んだのは初めてだ。
この本は元朝日新聞社で努められていた松本仁一さんが書かれたルポである。
・国民の視点から見たアフリカ諸国の一例
・崩れ去る国と、国家に頼らない生き方をせざるを得ない市民
・逆光の中でも懸命に模索する国民
内容をまとめるとしたら、こんなものか。
ページ数こそ少ないものの、さながらNHKスペシャルの様な。硬派なドキュメンタリーの様な構成で読みごたえがある。
まず最初に語られるのが“国の腐敗”である。そもそも部族を無視した国境線によって、部族間での差別や利権争いは政府内部ですら行われている。その結果が腐敗。賄賂が横行すればするほど上流階層が得をする。上流階級が事実上の寡占式の状態。大多数の国民には仕事が無く、結果流民として他国へと行き、現地人と揉める負の連鎖。そして、この事をアフリカ各国の政府役人に追及すると、「あなたはレイシストだ。」という素晴らしい返答があるという。
ここで例として取り上げられる国が、皆がよく知るハイパーインフレによって通貨が消滅した国・ジンバブエ。この国は異様だ。インタビューを受けた人間の多くが偽名を使っている。堕ちた英雄・ロバート・ムカベの失策はウィキペディアに任せるとして、1つ面白い逸話があった。悪名高き白人の農地没収令後、それでもジンバブエに残った白人の話だ。多くの人間が国内から去ったとは聞いていたが、苛烈な所業を受けながらも金銭的な面から離れられないという。経済的な問題とは言え人はそう簡単にはその土地を捨てられない。出ていく者もその苦しみを味わい。またそんな国でも理由はどうあれその土地に留まる者もいる。考えさせられる話だった。ジンバブエにまつわる話には暗黒しかない。国その物が暗黒時代だ。
続いて南アフリカの話に移り変わる。劇的なアパルトヘイトの終焉とマンデラ大統領の誕生は衝撃的だった。しかし、腐敗の速度は早かった。ACNの腐敗と治安の悪化の最中、安い賃金で犯罪と戦う警察部隊へ同行する話は、治安がとにかく悪いという南アフリカのイメージに合致する。
そして、興味深い話として、そんな南アフリカにビジネスチャンスを捉え、やって来る集団がある。中国人だ。彼らは膨大な人数で中国から移民し商売を始める。危険な国ほど強豪もいない。チャンスはある。という訳だ。これは南アフリカだけではない。アフリカの多くの国である“流れ”らしい。しかし、そこには民族の摩擦という危険もある。黒人達の仕事を奪える程、経済的に、民族的に力を持った中国人。この本を読むに、今現在アフリカにおいて中国系とアフリカ人の対立はさらに激化している可能性すら感じさせる。
グローバル化は世界を近くした。大卒ながら職が無く、日本へと渡った黒人の話へとシフトする。そこで登場する彼は各国のコミュニティーを転々とし、やがて日本へと移った。そこで先人達の教えを受け、日本人の女性と結婚することで強制送還のリスクを下げる。そして稼ぐ為に歌舞伎町で外人バーをするがキャッシュカードの不正使用で逮捕されてしまう……。多少古い統計と共に語られる実話。その物語はほろ苦い。
そして、最後には逆にアフリカへと渡った日本人の話がある。アフリカで会社を作り、共に働く日本人。彼らはアフリカ人と働き、そして、会社を大きく成功させた優れた経営者達だ。それ以外でも、もはや国家に頼らずあくまでも自分たち力で状況を打開しようと奮闘する人たちがいる。彼は混迷のアフリカにおける希望の光になるのか。それとも、今だ夜は明けないのか。のちの歴史書はアフリカをどう語るのか知りたくなった。
面白い本だった。知らない物を知る。それこそ本の醍醐味だ。
もちろん、ここでは書けなかった逸話はまだまだある。是非とも手に取って読んでもらいたい一冊だ。ちなみにこの本が書かれたのは08年。それから9年は経ったが、アフリカには大きく変化はあったのだろうか。南アフリカでワールドカップがあったり、南スーダンがスーダンから独立したりと素人でもわかる変化はこれぐらいだ。著者の松本さん曰く、この本はあくまでも中間レポートという位置づけ。
情報は生ものだ。今現在のアフリカは一体どうなっているのか。
次のレポートも自分は楽しみに待っている。
今現在(2017年10月20日)Amazonにて新品が発売中。
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