独断と偏見とちょっとしたスパイス 72
東方機神傳承譚ボロブドゥール 太田垣康男
─末法の世で血塗られた巨人は救世主になりうるか─
Amazonより引用
読んでますか、『機動戦士ガンダムサンダーボルト』を。
連載も10年を超えた現在。物語はクライマックスですよ。
イオとダリルのサンダーボルト宙域から始まった因縁にもついに決着の刻が迫っています。
この前新刊24巻を買って読んだのだけど、やっぱ迫真のシーンの連続で面白かったです。名前をついたサブキャラ達がどんどん死んでいく地獄の戦場で、力に溺れ大量殺戮者に成り下がったダリルら南洋同盟軍と多くの仲間たちの戦死していく中で真の英雄に成りあがったイオら地球連邦軍が死力を尽くした戦いを繰り広げていきます。
それにしてもこの2人の残酷な運命の差は1巻からは想像もできなかった。戦争で身体の自由を失ったダリルがここまで人を殺す事に躊躇が無くなってしまった様子には絶句するし、イオは戦争ジャンキーを気取って悪役をやっていた。でも根本的な根の部分はぶれてないのよね。何だかんだ初期から仲間意識は強かったですし。無理して気取っていた部分が無くなって真の戦士になったと思う。これが本編アニメシリーズだったらイオもニュータイプに成れたかもしれない。
イオとダリル。2人のどんな結末を迎えるのか。とても楽しみです。
さて今回取り上げる作品は『東方機神傳承譚ボロブドゥール』
『機動戦士ガンダムサンダーボルト』『MOONLIGHT MILE』で知られている、
太田垣康男先生の初のロボット作品です。
Wikipedia曰く元は2000年。コミックバウンドというたったの5号で廃刊したエニックスの雑誌連載だった作品で、その後2004年双葉社にてコミック化されました。
そういう経緯もあって1巻で完結した漫画です。
舞台は大陸の8割を僧会が武力で支配している末法の世。
世界観的にはタイやカンボジアみたいな東南アジアの様なテイスト。
この世界では機神転生術によって人の血肉を主原料に生み出されたロボット兵器「機神」が量産されていて、その原料の人間には異教徒や罪人、僧会の支配に反対する僧侶ら一派の肉体が使われていた。総会48ヶ所寺はこちらで言う強制収容所で、課せられた機神生産ノルマを達成すべく日々大量処刑が行われている。少年時代に旧王朝の残党の村として僧会の焼き討ちにあった折、姉の殺害した僧兵を殺した罪で囚われていた主人公・アロンは自身の無力さに打ちひしがれる日々を過ごしていた。そんな時にある老僧の出会い。機神を観客の前で戦わせる「奉納機神死闘祭」の開幕。そして少年時代、姉の遺骸を引きずりながら逃げた先の古戦場で見た機神ボロブドゥールが再び現れた事で、アロンの運命の歯車は動き出す。
2つの心で揺れている。
1つは1巻で完結したからこそ映画を1本見たいような満足感があった。
2つはエニックス編集部の無策が無ければこの続きが読めたのに。という不満。
後者はこれ以上触れない。ブログの文章が汚くなるから。前者について書いていこう。
面白かった。とても面白かった。
太田垣康男先生の作風って見せる画力と物語や世界観のリアルさ。人間の善と悪。喜怒哀楽の豊かな感情表現。これに尽きると思う。そして良くも悪くも短い尺の為、『サンダーボルト』よりもマイルドになっていると思う。あちらは結構エグイシーン多めで、しんどい人は途中読めなくなると思う。ダークで凄惨な作品ながらも人間の尊厳の為に戦うアロン。そして敵役は僧会のエリートで寺を最高責任者、そして妻を罪人に殺された過去を持つカラス僧正。基本的僧会のやっている事ってまんまナチスドイツなんだけど、2人の戦いはシンプルな勧善懲悪ものでは無く、正義と正義のぶつかり合いとして描いた所も凄く好きだった。結末も、新たな戦乱の始まりを予感させるものだけど、ハッピーエンドで映画を1本見たような満足感。
個人的に良い物語の条件の1つに、世界観がリアルで、尚且つそれを読者に表現で伝えれている作品だと思う。その辺が雑な作品は、世界や舞台設定に作り物感が出てしまい、チープになってしまう。読み手に世界や匂いを想像させてくるような作品って、後はユーザー側で色々想像で補完できるから世界観が無限に広がる。でもチープな作品は広がらない。作者の力量以上の広がりは無いから。たった1巻。200ページそこらで、こんなにも濃厚な世界観が見れたのも凄く好きなポイントだったりする。選民的で人間の血肉で作った兵器で殺し合いをさせるぐらいにモラルが無くなった僧会が支配するという、とんでもない末法の世。空飛ぶ船がある反面、とても貧しそうなアロンの村。技術水準が高いのか低いのか何とも言えない感じが、想像をさらに豊かにする。
ロボットの無骨でグロテスクで、そしてかっこいいだよね。
人で言う心臓にあたる部分に人が立つエリアがあって、そこにある無数のケーブルを直接人体に接続する事で動かす事ができる。(ただし敵の量産型のみコックピットがある。ワンオフ機は無し?)操縦者の動きと同調して誤差無く動かせれる反面、機神が受けたダメージも操縦者にリンクする。動力源は武装は刀剣類かライフル。ただし主人公機・ボロブドゥールは伝説の剣「宝力雷剣」で戦う。ボロブドゥールは動力源をケーブルに依存しているが、敵にはケーブルがついていないので、元はバッテリー機だが「奉納機神死闘祭」の開催に合わせてダウングレードされたのかもしれない。連載が続いていたら、機神はどう動いて、どんな戦いを見せたのか。これ以上動いて戦う様が見れないのが残念でならない。でも大勢の人間の血肉が主原料というダークな設定は本当に好き。
仏教、凄惨な背景を持ったロボット、僧侶。
これは個人的な推測だけど、この時に書いていた作品の構想やアイデアが、『機動戦士ガンダムサンダーボルト』に利用されたのかなって思ったり思わなかったりしている。これこそ作者のみが知る事だからわからないけどね。ただ『機動戦士ガンダムサンダーボルト』が終わったら『ボロブドゥール』の続編書いて欲しいって思っている自分がいる。多分無理だと解っているのだけどやっぱみたい。それにネットフリックス系の配信サイトとかでアニメ化でもいいな。長編アニメ化したらとても面白い作品になると思う。動いている機神が見たい。無骨でグロテスクなロボットと、熱い人間ドラマを良かったら読んで体験して欲しいなって思います。
今は良い時代になった。今から20年前に発売された本作品。もちろん絶版本なんだけど電子化されているので読めます。旧作の絶版本でも買える。読める。という環境ってすごくいい時代になったなって思う。古本屋って結局知らない本を探しにいく場所で、目当ての本を探そうとすると、ただただストレスしか残らないからね。
ちなみにKindle Unlimited対象作品(2024/08/16現在)なので、会員の方も良かったら読んでみて欲しいです。
双葉社公式サイト
Amazon
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