湾岸ミッドナイト ─“アキオ”と“悪魔のZ”が灯した光─ 楠みちはる

2023年3月3日金曜日

講談社 週刊ヤングマガジン 楠みちはる 漫画

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独断と偏見とちょっとしたスパイス 49


湾岸ミッドナイト (湾岸MIDNIGHT)
─“アキオ”と“悪魔のZ”が灯した光─






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ゲームセンターなら大抵どこの場所にもあるゲーム。湾岸ミッドナイト。

あれって結構面白いよね。マニュアルのギアとかも凝ってて。
パーティーゲーム感覚でみんなでワイワイ対戦するのも楽しい。
マリカーも面白けどさすがにねぇ… 移植待ってます 基本プレイ無料とかでいいので…

ただやり込みや対戦を意識するとかなり沼なゲームで、
そもそも対戦する為にマシンをフルチューン(強化)しないといけないのだけど、
その為には時間(ストーリーモードクリア)とお金がかかってくる。

まあこれはゲーセンゲームの宿命だから仕方だからしょうがない。
……と思っていたけど原作を読んでわかった。これって原作再現だ。


車のチューニングにかかる時間やお金。
それと反比例するリターンの少なさについて、度々作中には描かれていた。
そして走る人達はそんな事を物ともせず、お金をかけてマシンをチューンする。
その一瞬の為に。


ゲームのプレーヤーも一緒だ。
1タイトルのゲームで対戦する為に。そして勝つために。
お金と時間をかけてカスタムする。
対価に対して得られるものは少ないが、それでもなお。


作内で散々描かれていた刹那的な一瞬の為に浪費する様。
これを中々によく再現したゲームだと思った。







さて、今回取り上げる作品はこのゲームの原作漫画『湾岸ミッドナイト』。


舞台は東京・首都高。通称C1。

ここをまるでサーキットの如く走る車の姿があった。

「悪魔のZ」ことフェアレディZを駆る朝倉アキオ。
湾岸の帝王・ポルシェ911「ブラックバード」・島達也。

コインの表と裏。表裏一体の2台に挑む数々の挑戦者達。
彼らはこの2台に挑み、やがて何かを悟って2台の前から消えていく。
そんな移ろい行く東京の夜。スピードに魅入られた者達を描いた。



最初にいっておく。物語として本当に面白いのは最初の10巻ぐらいまでだと思う。

個人的にはイシダ編辺り。まだアキオが無駄に尖ってて、逆に達也が掴みどころが無い。
あの辺ぐらいが一番人間ドラマをやっていたと思う。

特に2巻で「悪魔のZ」の生みの親・北見淳が現れてから、
一種のお祭り感が出てきて良かった。

一体何が始まるのか。見当のつかないドキドキ。


最初のころの北見って童話に出てくる悪魔みたいなキャラで、
さらっととんでもない事を言ったり、まさに悪魔的言動で人を導いたりする。

まさに「悪魔のささやき」。
よく音楽の世界で活躍するプレイヤーに「悪魔と契約した。」と評される事がある。
例えば、ロバート・ジョンソンのクロスロード伝説みたいな。

そこで現れる様な悪魔。それが北見だ。

一方で誰よりも「悪魔のZ」を愛し、また「悪魔のZ」をより強化する為に、
そのライバルで天敵である「ブラックバード」をチューンする。

自分の工場はつぶれ、家族からは縁を切られても。
「悪魔のZ」に関われる自分が一番幸せだと言い切れる。そんな狂人。

こういうシンプルにいかれたキャラクターが大好きだから、物語に飲まれた。

序盤って結構サブキャラクター達が良い個性を持っていて、
その出会いを通してどんどん人間関係が広がっていく感じが好きだった。

基本的にこの漫画メカニック以外はフェードアウトする運命なんだけど……。

イシダと嶋田るみ(アキオの通う高校の担任)の掛け合いとか好き。


この関係性が深まるのかなって思っていたから、フェードアウトしたのは悲しかった。


そうそう。高木も忘れてはいけない。それぐらいいいキャラしている。

性格は最悪。人は一切信じず、客からはぼったくる。そんな板金屋の社長。
というのが最初の登場。とても主人公サイドのキャラでは無い。

でも北見には過去の恩から頭が上がらない。

北見から手作業で火災で燃え尽きた「悪魔のZ」の板金を任されると、
それが原因で心労と疲労が重なり入院してしまう。


一度は自分の労力の無さに絶望し作業を投げ出そうとするも、
夜、忽然と現れた北見のささやきとアキオの姿に奮起して作業をやり遂げた。

その後病院に訪れたアキオに、
「よくやったか!」って涙目で聞く場面は、屈指の名シーンだと思う。

以降準レギュラーキャラとして物語の最後まで要所で現れるし、
アキオとの関係がより深化する様を本編を通して見れて良かったと思う。


そうそう。ヒロインのレイナめっちゃ可愛い。
結局アキオの親友ポジで終わっちゃったけど、下手なヒロインよりカワイイ。

好きなバトルは山中VS達也。
オチも含めて私は大好きだった。




マサキ編以降は、話は一定の面白さはあるのだけど、
物語の様式が完成していまいマンネリ気味。

毎回ゲストキャラが湾岸に参戦し、2台と走る事で何かを悟って消える。
この様式が完成してしまい、最初の頃にあったお祭り感は完全に消えてしまった。

また悪魔的だった北見も情熱を取り戻してからは、
わりと普通の人に落ち着いてしまった印象があるし、
メカニック達が話の中心になり、アキオ達ドライバーは地味になっていた。

状況は違えど毎回大まかな物語展開がよく似ている「ロッキー」シリーズみたいな感じ。

物語の状況は違えど、オチは大体一緒だからちょっと萎えるかな。

エイジ編とかもいいけど、城島編が中盤のハイライト。
序盤にあったお祭り感がもう一回でてきてこの辺も読んでいて楽しかった。


しかし中盤以降。友也編以降は美学や哲学的ある種の思想が根強くなり、
良くも悪くも自己啓発書を読んでいる様な。そんな印象が強くなっていく。

そしてセリフに(笑)みたいなのがあって、
セリフコマが若干おじさん構文みたいに見えるのもちょっと気になる。

それを受け入れられるか。否か。それにかかっている。


終盤で好きなセリフがある。それは高木の、
欠乏と充足を繰り返して人はわかりそして進むと俺は思っている


物語で何度も何度も書かれた、
湾岸で走るという事がどんなに違法か。という事を。
そしてチューンの虚しさを。

でも人はそれをやってしまう。

湾岸で走るドライバー達を端的に表したいいセリフだと思う。




「悪魔のZ」とアキオ。「ブラックバード」と達也。
この2人が冷めてしまったチューナーやドライバー達にもう一度火を灯し、
彼らは燻っていた情熱を取り戻していく。

そして、もう一度湾岸の世界へと舞い戻った彼らに、
2台は精神的に何かしらの得る物を与える。


言葉で表すならば、
それは日常生活では得られない充足感。だろうか。


「悪魔のZ」とアキオから始まった物語は、
孤高に走る『ブラックバード』と達也を巻き込み、多くの人々を巻き込み拡大する。


『花神』という大河ドラマのOPにこんな言葉がある。

一人の男がいる。

歴史が彼を必要としたとき忽然と現れ、その使命が終わると大急ぎで去った。

もし、維新というものが正義であるとしたら、

彼の役割は津々浦々の枯木にその花を咲かせてまわることであった。

中国では花咲爺のことを花神という。

彼は花神の仕事を背負ったのかもしれない。

彼、村田蔵六、後の大村益次郎である。



この漫画を読んだとき、
彼の役割は津々浦々の枯木にその花を咲かせてまわることであった。」
というフレーズがどうしても頭を離れなかった。

「悪魔のZ」とアキオがやった事。
それは冷めた人達への光となって心に火を灯す事だった。


人に希望を与え、周りを変えていったマシンとドライバーの物語って考えると
何かちょっと童話みたいな感じもする。


でも、こういうのって好きなんだよね。


そして、スピードを出す人間の心理を丁寧に描写した所もよかった。

私もバイクでスピードを出すのが好きだから、
心理状態を漫画という媒体でよく表現されている様に思った。



もしもスピードが好きなら、
どこまでもハードで、どこまでも中毒的なこの世界を覗いてみよう。


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