独断と偏見とちょっとしたスパイス 69
トランス・ワールド
─すべては不幸の連鎖を断ち切る為に─
※本レビューにはネタバレや結末に触れた内容になります。
もし見る予定の人はプラウザバッグしてください。
この映画はあまり情報を入れずに見る事はお勧めします。
この映画を知ったのはX(旧Twitter)でこの映画のファンのツイートだった。
ちょうどアマプラでの配信が終了する数日前にファンが作品紹介ツイートをしていて、それをある作家さんが引用リツイートしていた。どうやらその作家さんも好きな映画とのことだった。私は作家さんのリツイートを見てこの映画を知った。
SNSの口コミが作品を見る導線になる事は昔からよく言われているが、最近はさらにこの傾向が強くなってきている様に思う。自分が運営しているこのサイト「独断と偏見とちょっとしたスパイス」も誰かが作品を見る為の導線になれば幸いだ。私の文章は稚拙だし、そもそも私は何者でもない。何かしらの実績も、権威も、何も持たない人間だから読んでくれる人なんてたかが知れている。でも、だからこそこのネットの大海にある泡沫レビューブログまで遊びに来ていただいた人ぐらいには文章で還元したい。土日の空いた時間に見る作品を選ぶ中で参考になれば、それだけで私は嬉しい。
それが私の最低限の誠意だと思う。
さて今回は久々の映画紹介。『トランス・ワールド』を取り上げます。
公開は2011年。アメリカで制作されました。ジャンルはSFサスペンス。
キーワードは「クローズド・サークル」と「タイムスリップ」。
あらすじ
車のトラブルや事件をきっかけに森の中にある小屋に集まった若い3人の男女・ジョディ・サマンサ・トム。3人は小屋からの脱出を図ろうするが、その小屋から一定の距離を離れたりすると方向感覚を失い、どういう訳か小屋に戻ってきてしまうか、謎の体調不良で最悪意識を失ってしまう。また記憶が一部うろ覚えで眠ると自分の死ぬ悪夢にうなされる。3人は途方に暮れている中で、奇妙はすれ違いがあった。まず3人が怪奇に巻き込まれる直前まで違う州に在住していた事。3人はそれぞれ生まれた時代が違う事。初対面だった3人には大きな共通点があった事。疑念が深まる中で、突然第二次世界大戦の頃のドイツ軍の恰好で武装した男が小屋に入ってきたことで、点と点は繋がり物語は急展開を迎える事になる。
面白いミステリー小説を読み合えたかのような満足感があった。
「クローズド・サークル」特有の緊張感。節々にある伏線や登場人物達の意味深なセリフの数々。そして後半、全てが明かされた後の熱い展開。映画自体の雰囲気はとても暗い映画だから、まさかここまで熱い展開になるとは思わなかった。尺が89分と短い事もプラスだった。これが2時間映画だったら中だるみして退屈だったと思う。展開自体はスローペースながら作品に退屈さを感じずに済んだ。ただ惜しいのが低予算映画とあって、所々の演出が陳腐なのと、BGMがホラーテイストなので、作品にマッチしていたかった事。これのせいで作品に安っぽさが出てしまったのは残念だった。でも、もし見れる環境があるならば見た方がいいと言える。
個人的に好きなシーンは3人が自分のルーツや関係性を知った後の曇り方。
今ネット界隈では登場人物が鬱展開により最初の頃にあった明るさが消え、精神的に摩耗した状態に陥る事を「曇らせる」みたいな言い方をする。悪趣味極まりない性癖みたいなものだけど、この映画の「曇らせ方」は芸術味を感じた。当時にこの言葉がより一般的だったらTwitterでバスったと思う。そのレベルで見ごたえがった。悪夢は未来の記憶だった事をしり、そして最悪の関係性を知った3人の苦しみようは、自分だったら壊れると思う。そんなレベルの「曇らせる」。気まずさと、途方もない苦しみを感じさせるこのシーンがとても印象的だった。
実は3人は血のつながった一族で、祖母サマンサ、娘ジョディ、孫トムという関係性だった。しかし、祖父にあたる人はベトナム戦争で戦死し祖母サマンサは祖父の出兵中に病死、娘ジョディは強盗殺人事件により処刑判決が下され獄死。孫トムは孤児院で育てされるが自身を虐待した神父を殺害し自殺していたという事が明かされると共に、自分らがいる場所が第二次世界大戦のヨーロッパ前線であり、トムからみて曾祖父にあたる人物こそ最後に現れたドイツ兵・ハンスだった。彼はこの戦争で戦死した事がきっかけで、サマンサの母はアメリカ移住したという。もしも、ハンスを救う事ができれば、一族の負の歴史は消滅し、また違った未来があるのではないか。自分たちが生まれてこなくなってしまう。その可能性もありながらも、3人は未来を変える為に、ハンスが戦死しないように協力する。しかし、ハンスからすれば、3人は敵国アメリカ人で、そもそもハンスは英語が喋れない。そして、真面目な軍人だったハンスは自身の任務をやり遂げようとする。ここに未来を代えたい3人とハンスは激しく対立していく事になる。
ここから奇妙な「クローズド・サークル」ものからタイムスリップ系のSFへと変わっていく。ポイントなのは、ここで未来を変える事でジョディやトムがその存在が消えてしまう可能性を認識しているという事。未来を代えないと先が無い。しかし、未来を変えると自身の存在そのものが消えてしまうかもしれない。究極の2択の中で、彼ら未来を変える事にした。だから熱い。だってそもそも今まで知る事も出来なかった親と出会い、様々なわだかまりもありながらも、自分たちで未来を選択した。自分は人間の強さは選択できる事だと思う。それはどんな事であっても自分で考え、選択する事にこそ価値がある。
そんな3人をハンスは信用しない。それも当然で戦争中に急に現れたアメリカ人達が自分の末裔とか言われても、信じれる訳もない。それが悲劇に繋がる事になる。
未来を変える為に抗った3人の運命は。そして未来は変わったのか。
是非ともその結末は見て欲しいと思います。
面白かった。
低予算映画ならではの演出力不足を、シナリオの力で補った。
サスペンス要素とSF要素を上手く取り入れ程よくまとめた本作は、前半と後半で明確に展開を変える事で中だるみする事も無く、最後まで作中の緊張感が残り、惹きつけた。
サスペンスとSFって組み合わせってやっぱり王道だよね。
久々にSF小説が読みたくなりました。早川文庫辺りで探すのもあり。
とりあえず気になった人は是非チェックしてみてはいかがでしょうか。
Amazon
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