独断と偏見とちょっとしたスパイス 87
機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)
─ジオン独立戦争のIFルートと不穏なニュータイプたち─
映画.comより引用
※一部ネタバレあり、注意
その昔ソニーが販売していた携帯ゲーム機・PSP(プレイステーションポータブル)があった。モンハンセカンドGとかファンタシースターポータブルとか、わりと話題性のある作品が沢山あった思い出のハードなんだけど、そんなPSPにすごくニッチなガンダムゲームがあった。それが『ギレンの野望アクシズの脅威』。これはファーストガンダムから始まったシェアワールド「宇宙世紀」の一年戦争からシャアの反乱までの期間の主な軍事勢力の最高司令官となって敵勢力をせん滅するシミュレーションゲーム。ガンダムというとやっぱりアクションゲームのイメージが強いだけに、ウォーゲームの様な硬派なゲームデザインが異色だった。まさかジークアクスの映画が公開されてからX上にトレンドとして「ギレンの野望」の文字を見るとは思わなかった。そしてまさか「ジオン公国が勝利する。」というシナリオをゲーム媒体ではなくアニメでやった事も衝撃だった。
機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-(以降はジークアクスに統一)は2025年の4月から放送開始されるガンダムの新シリーズの先行上映。劇場版として再編集されているという。
ガンダムシリーズの中でも一番歴史が長く、作品数もけた外れに多い宇宙世紀。その中でも最も最初に起こった大戦が一年戦争。地球圏を統治下においた地球連邦政府に対して宇宙コロニー群の一つ、サイド3で生まれた新しい国家ジオン公国が独立戦争を仕掛けた。ジオン公国による無差別かつ大量破壊兵器を用いた戦法はまるで絶滅戦争の様なジェノサイドが横行する結果となり、人類の総人口の半分が犠牲になるほどの壮絶な戦いとなる。元々はただの少年だった主人公のアムロ・レイも戦争に巻き込まれたが、偶然地球連邦軍の最新鋭モビルスーツ・ガンダムに乗り込み、その驚異的な操縦もあって多くのエースを屠った。アムロの活躍はどれ程戦局に影響を与えたのかはさておき、その後の爆発的な巻き返しもあって地球連邦政府の勝利で幕を閉じた。これがファーストガンダムの歴史の流れ。しかし本作では、ファーストガンダム上の最大のライバルであるシャア・アズナブルがガンダムとその母艦ホワイトベースを鹵獲した事で大きく変わる。膠着状態であった戦争は、シャアと赤く塗装されたガンダムの無双によりジオンは戦局を大きく覆す結果となった。しかし、シャアには野望があった。元々シャアの父ジオン・ズム・ダイクンはサイド3の政治家兼思想家であったが、現ジオンの指導者ギレン・ザビの父デギンに暗殺された事が示唆されている。その事を深く恨んだシャアはザビ家一族の暗殺を謀る事になる。それと並行して宇宙に出た人間が宇宙に適応する為に進化した様を人類の革新・ニュータイプと言う。ざっくりと言うと「感受性がとても豊かな人間で超人的な一面を持っている。」と思ってもらって構わない。シャア自身のニュータイプであり、ニュータイプによって世界を構築する野望を抱えていた。そこに新たな同志シャリア・ブルと出会う。ファーストガンダムでは1話で退場した敵キャラで富野由悠季監督が書いたファーストガンダムの小説版では重要な役割を持っているという。とは言えガンダムでは存在感の薄いキャラが本作ではフューチャーされる事になる。野望が渦巻く中、一年戦争は正史とは違った最終局面に移る。
これが映画前半のあらすじと解説。SFは専門用語まで解説すると長くなる。 ちなみにこの「-Beginning-」のパートは劇場版限定との事で地上波放送では省かれるらしい。ファーストガンダムの大胆な改変。今まで個人個人で想像するしか出来なかったジオン軍勝利というIF展開が公式のアニメコンテンツとして出されるとは思わなかった。長く続いているシリーズだからこそこういう攻めた新シリーズが始まって凄く嬉しい。歴史物と違って制約も少ないからこその自由さも感じている。カメオ出演するファーストのキャラ達にも注目。正史では死んでいるジオン軍側のキャラが本編以上に活躍しているのもIF展開の醍醐味だよね。考察する余地もあって二重に美味しい。反響が反響を呼び、この作品を切っ掛けにガンダムシリーズを履修した方もX上に何人も見かけている。高齢なファン層も多いガンダムシリーズだけど、一方で若年層や新規のファンの心をキャッチするような話題作作りも定期的に行っている。長い間ガンダムを嗜んだファン層の心を掴みながら、新規ファン層への過去作品への導線作りも図った凄い作品だと思う。ちなみに世界観や大まかあらすじを上記に書いている。トータルで887文字も書いているが、ぶっちゃけ知識ゼロでも楽しめる程に作中内の情報量は減らされてある。もちろん尺の都合もあるだろうが、ライト層にもとてもやさしい導入。新規層には分かりやすく、一方でガンダムの知っているファンは驚かす、いい序章だった。
物語後半。物語は5年後の宇宙世紀85年に移る。正史では連邦軍内で力を強めていたティターンズ派閥が反連邦デモを行っていたサイド1にあった30バンチコロニーに毒ガス攻撃を行い1500万人を虐殺した30バンチ事件があった年。宇宙世紀ってわりとデフォルトで主人公の敵対勢力がジェノサイドやるから恐ろしい。腐敗しまくりの地球連邦がまだマシなぐらい敵勢力が狂っている事の多い宇宙世紀ってやっぱ地獄だよね。一方ジークアクス世界線ではジオン軍の勝利で終わった為ティターンズは存在しない。だけどコロニー内には難民が溢れ、ジェノサイドを主導したザビ家が地球圏の覇権を握っている。モビルスーツに乗った軍警によるコロニー内難民に対する取り締まりの範囲を超えた暴力が行われる様は劇場版『閃光のハサウェイ』(宇宙世紀105年の話)で描かれたマンハンター(許可なく地球にいる不法滞在者を取り締まる地球連邦政府の警察機構)とダブる。描写が薄いから謎だけど、ジオンが勝ったからと言って地球圏が安泰とならないのが宇宙世紀の不安定さを象徴している。
物語の舞台はサイド6イズマ・コロニー。現代日本の様な雰囲気がある一方、多数の難民が押し寄せ、モビルスーツで武装した軍警による難民への必要以上の暴力が度々起こっている不穏さも隠せないコロニー。ある日女子高生の主人公アマテ・ユズリハ(マチュ)は偶々警察から逃走していた禁制品の運び屋ニャアンとぶつかった所から物語は始まる。ぶつかった衝撃でニャアンは運んでいた違法のMS用デバイスを落としてしまう。デバイスに興味も持ったマチュはニャアンと再会し、共に難民区にある届け先のジャンク屋組合へと向かった。この事が、マチュがモビルスーツに乗り、モビルスーツで戦う非合法の興行「クラウンバトル」に参加するきっかけとなる。一方5年前のある戦闘で大型質量を一瞬で消滅させるニュータイプ能力に起因する超常現象ゼクノヴァによってシャアは行方不明となり、一人残されたシャリア・ブルは未だ鹵獲したホワイトベース(ちなみにジオン軍により改称されてソドンとなっている。)に乗り、シャアを探していた。そしてシャリア・ブルもまた同じ頃にイズマ・コロニーを訪れていた。
え、好き。もう一回見て行こうか迷ったぐらい。音質とか画質とかに大きなこだわりも無いし、映画館ではお金もかかるから好きな映画でも劇場で何度も見たいって基本的に思わないのだけど、これはまた見たい。トレンディーでポップ。そしてカラフルな感じってとっても令和ぽい。作中の世界は酷い時代だけどこの一種の爽快感は癖になる。この世界観に包まれたいって思った。ファーストガンダムがオマージュされた-Beginning-はどう今風にアレンジした所で安彦良和さんの影が見えるのだけど、ジークアクスにはその影がなくなっていて、作風のギャップというか落差には風邪を引きそう。キャラクターデザインの竹さんは最近だと『ポケモンソード/シールド』や『スカーレット/バイオレット』とかのキャラクターデザインもされている方で、ポケモンってネットで見る機会も多いから見慣れていて、何なら親しみみたいなものも感じでいる。わりと好戦的で直観的な主人公のマチュが流れるままにモビルスーツに乗り、何ならジオン軍の最新鋭モビルスーツジークアクスまで結果的にパクッてしまう勢いのよさ。そして非合法のクラウンバトルに参加するなんて、ジャンプみたいな少年誌のノリ。でもマチュ達には人を殺して欲しくないって思う。宇宙世紀のガンダム主人公だから難しいとは思うけどさ。不殺とかじゃなくて、最初から殺し合いを目的にモビルスーツに乗らない主人公がいてもいいと思う。マチュが見たニュータイプの素質のある人だけが見えるキラキラ。ゼクノヴァとは言ったどういう事なのか。そしてマチュが見たキラキラの様な絵を描き、そしてシャアが載っていた様な赤いガンダムに乗る謎の少年シュウジの謎と、クラウンバトルを通してマチュを認識したシャリア・ブルの狙いとは。物語の展開が一体どうなるだろうか。爽やかな空気感で最後までいくのか。それとも地獄の宇宙世紀を描くのか。ワクワクが止まらない。とにかく続きが気になっている。
今年の4月から地上波放送が始まるという事で楽しみですね。宇宙世紀ものとして地獄みたいな戦争物になるのか。それともカジュアルながらも「ニュータイプとは何か」について今一度振り返る作品になるのか。凄い楽しみ。またファーストガンダム以外のキャラクターが登場するかもしれないし、ファーストガンダムの主人公アムロ・レイがマチュ達の前に現れるかもしれない。『機動戦士ガンダムFREEDOM』の時もそうだったけど、物語についてあれやこれや考えている時が一番楽しいよね。あの時は主人公が闇落ちして死ぬ。とかまで考えていたから特に。このワクワクを残しながら、毎週の放送を追いかけていきたい。
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