イカゲーム シーズン1  ─富んだ話題性に隠されたドラマチックな本質─

2025年4月18日金曜日

ネットフリックス ファン・ドンヒョク

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 独断と偏見とちょっとしたスパイス 88



イカゲーム シーズン1
─富んだ話題性に隠されたドラマチックな本質─








自分には姪っ子甥っ子がいる。たまに会って色々とお話をする中で保育園での流行りみたいな話になると必ず出るワードが「イカゲーム」。さすがは現代っ子。デジタルナラティブ世代とあってどの家庭でも子供ながらタブレットを所有しているのが最近のマストらしい。おそらくYouTubeやTikTok等のショート動画でイカゲームを模した動画が子供向けチャンネルでも沢山流れてくるみたいで、大まかなゲーム内容とか、誰が生き残ったとか知っていた。さすがにちょっと残酷な描写が多いし、ストーリーラインもまだ理解できないから本編は見せられないけど、人気コンテンツが年齢の壁を突き破って流行るってやっぱすごいなって思う。似たような話で、ある美術展で幼稚園生ぐらいの子供が書いた絵が沢山飾られていた中で『押しの子』の星野アイのイラストが何枚も飾ってあった。コンテンツが理解できるかどうかはさておき、キャラクターが「アイコン」として子供達の中でも受け入れられるって、コンテンツの流行を示す分かりやすい指標だと思った。





今回取り上げる作品はネットフリックス発の韓国制作のドラマ『イカゲーム』を取り上げたいと思う。まあもう説明は不要だよね。ネットフリックス独占配信タイトルの中でも特に話題になったタイトルの一つで、世界的人気作品。全9話構成で、一話大体50分前後。基本的にサブスクの独占配信タイトルって見れるプラットフォームが限られる事もあって話題性がどうしても落ちてしまう。実際アニメ作品だと見た人の評価はとても高いのにX等のSNSではほとんど話題にならないケースもあった。それがこうやって話題の作品としてマス層まで広がり、ここまで強い話題性も持ったコンテンツになったのだから、ネットフリックスの普及率の高さも再確認している。「だるまさんが転んだ」のシーンは特に有名で、この場面の切り抜きショート動画は本当によく見かけた。韓国にもこういう遊びがある事を知ったちょっとした国際交流。ブームの時には何となく天邪鬼で見なかった。シーズン2の配信が始まった時も見なかった。でも、姪っ子甥っ子があまりにも「イカゲーム」「イカゲーム」と言うものだから、1回見てみる事にした。恐ろしいぐらいに面白くって最後まで見てしまった。ネットフリックスは時間泥棒とは聞いていたけど、ここまで面白いとは思っていなかった。






ソン・ギフンは最悪だった。勤めていた自動車工場をリストラされ、その後に始めた事業は全て失敗。闇金を始め多額の借金を背負う事になり妻とは離婚一人娘の親権は妻が持ち、それ以来僅かな仕事で糊口を凌ぐ日々。博打にも手を伸ばし、高齢の母が行商で稼いでお金をくすねたは賭博に打ち込み、借金の返済が滞っては闇金の集金人からはリンチに遭う。そんな最悪の男ギフンはある日、奇妙なスーツの男スカウトマンに出会う。彼はメンコで自分に勝てばギフンに1万ウォン渡すという条件で勝負を誘う。ちなみにギフンが負けた時はお金の代わりにビンタ一発という破格の条件。その勝負を受けたギフンは、かなりの数のビンタを食らったものの、最終的にはメンコ賭博に勝利し賞金を獲た。スカウトマンとの別れ際に渡された一枚の名刺。それはより大金を賭けたゲームへの招待状だった。借金に加え、別れた妻が再婚し、アメリカへと移民するという話を聞いたギフンは親権を取り戻すべく、このゲームに参加する事になった。それが命を賭けたデスゲームになる事とは知らずに。





「イカゲーム」については私自身かなりビジュアルに引っ張られていた。SNSを中心に流行った作品とあって、最初のだるまさんがころんだに登場した巨大少女型ロボットとか、雑用から戦闘業務までを担うゲーム運営側の運営スタッフ・ピンクガードのイメージがとても強かった。例えば『スターウォーズ』におけるダースベイダーライトセイバーストームトルーパー『スーパーマリオ』キノコみたいに。あまりにも知名度が高い作品になると、作品を見ている、見ていないに関わらず、一種の教養として刷り込まれる訳だ。だから作品に対して勝手なイメージがどんどん生まれてしまう。見る前はわりとスタイリッシュなデスゲーム作品だと勝ってに思い込んでいた。コミカルで、ライトなノリで人が半ばギャグシーンみたいな描かれ方で死ぬお話かなって。それが全然違った。物語の土台、コアの部分にはちゃんとした人間ドラマがある。葛藤や苦しみ。そして何故命を賭けてでも金を得るのか。という動機付けがちゃんとあって、見る人を惹きつける要素が盛り込まれている。キャッチなビジュアル。もはやマスコット的存在になったピンクガードや少女型巨大ロボットに引っ張らていただけに、コアにあるドラマチックなストーリー性にいい意味で裏切られた。


序盤こそ『カイジ』の序盤。ギャンブルの舞台となった船「エスポワール」とか「鉄骨渡り」ぐらいの頃の雰囲気がある。多くの債務者や社会で居場所を失った人間が離島に集められ、デスゲームを通して虫けらの様に命が消費されていくあの空気感。凄く重たくて、でも登場人物達の事が決して他人事とは思えないからこそ感じる息苦しさ。見ていて苦しいこのリアルさに「物語の世界だから。」と自分に言い訳しながら見る。あの感じがよく似ている様に思う。実際『カイジ』等の影響を受けているという事だ。『闇金ウシジマくん』とかもそうだけど、こういうダークな話って見ていてストレスフルなんだけど、でもたまに見たくなる時ってあるよね。


主人公ソン・ギフンはやっている事が最悪のダメ親父っぷりもカイジと重なる。いい年して母親の通帳からお金を抜いたり、癇癪起こして妻の再婚相手をぶん殴ったり。いい所が本当に無いクズっぷり。それが後半では多くの人が無碍に殺される地獄の様な場所で、周りからはお人よしと舐められながらも信頼される男となり、義憤に駆られては悪人と真正面から戦う正義の人になるのだからこれが分からない。ギフンと義憤。韓国の作品だから関係無いだけど、日本語で見ると何というか因果を感じている。個人的に信じているオカルトなんだけど、名前と性格にはある程度の相関関係があって、名前に影響される形で性格や趣味嗜好が引っ張られる。という何の根拠も無い事を信じているから、ギフンって名前が何か印象的。韓国だとありふれた名前かもしれないだけどね。


面白くなるのは中盤の第4話の「チーム分け」から。登場人物達の背景やキャラクターへの理解が進み、体感ここから物語のペースもさらに早くなってくる。ギフンの本質的なお人よしな側面がより強調される様になり、序盤のクズのおっさんからの覚醒ぶりが見れると共に、同じくゲーム参加者でギフンの地元の後輩でソウル大学卒業のエリートながら投資の失敗や詐欺行為により指名手配されているサンウが少しずつ闇落ちしていく様も見どころ。全ては大金を持ち帰る為に人を利用し、騙し、陥れようとする様子が丁寧に描写されている。ただの一般人が悪へと手を染める過程がリアルだった。キャラクター達も魅力的で、脱北者で北朝鮮に残る母を韓国へと亡命させる為ブローカーに払う資金を稼ぐ為にゲームに参加している一匹狼のセビョク。組織の金を着服したために組織から追われる事になった横暴なドクス。パキスタンから出稼ぎにきたアリ。刺々しい会話が印象的なハン・ミニョ。脳に腫瘍のある老人オ・イルナム様々な立場の人間達が状況に応じてその折々で絶えず人間関係が変化していく様はデスゲームの醍醐味。このグラデーションもこの作品の魅力だと思う。個人的にハン・ミニョが好き。リアルだと周りにいて欲しくないぐらい頭おかしい社会不適合者の狂人なんだけど、作品的には凄く美味しい役回り。その都度で印象的な活躍を見せる。好きな回は6話の「カンプ」。通称ビー玉回。セビョクの内面がより掘り下げられ、切ないゲームの結末とそのラストが印象的。一匹狼でセビョクが初めて信頼できる仲間を出会った回として泣ける1話。今までエグイ展開が続いていただけに、切ないラストが清涼剤となった。


また本編とは別の枠で、行方不明の兄を探す為にギフンの跡を付ける形でゲームが行われている島へ訪れた警察官ファン・ジュノピンクガードになりすましてゲーム運営者側として密偵するパートが時折本編中に挟まる。ギフンとも絡みは序盤だけで本編にはあまり絡まないサイドストーリーみたいな位置づけ。イカゲームの謎に迫る潜入サスペンス。ここのパートはどちらかと言うと続編に向けての準備パートみたいに感じた。ゲームマスターフロントマンとの接触やデスゲームを観戦するVIPに迫ったりと、見どころは多め。ジュノがこれから本編にどう絡むのか。これはシーズン2に期待したい。





流行の作品とあってSNS上でのイカゲームネタのこすられからも尋常じゃない。だからこそ変なイメージがあったのだけど、やっぱ作品ってちゃんと見ないとだめだなって思った。富んだ話題性にあまりにも引っ張られて、その作品のコアの部分にあるドラマチックな人間ドラマを見逃してしまう所だった。一見キャッチな見た目ながらも、本質的にはしっかりとした物語性があって、大人でも楽しめる作品に仕上がっていました。正直甥っ子たちを見ているとティーンエージャーをボリューム層にしている作品なのかなって思っていただけに、自分のアンテナも大分錆びてきた様に思う。社会のどん底に追い詰められたプレイヤー達のドラマ。一見滑稽ながらもその滑稽さがより残酷に感じるデスゲーム。そして多くの人に作品の存在をアピールするアイコニックな舞台装置と、色々な要素が神がかり的に噛み合った作品でした。今年には最終作も配信されるという事で、その前には「イカゲーム2」もチェックしときたいと思います。



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毎週金曜19時更新。 目に留まった創作物にレビューを書きます。批評家では無いので、凝った事は書きません。文章は硬いめだけど、方針はゆるゆるです。よろしくです。

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