『夜の床屋』 沢村浩輔

2018年6月2日土曜日

げみ 創元推理文庫 沢村浩輔 東京創元社 読書

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世の中の創作物にあーだこーだ言う。
『独断と偏見とちょっとしたスパイス』

第5回は、良い意味で日常系ミステリー小説という皮を捨てたファンタジー。
『夜の床屋』沢村浩輔

冒頭で少し注意。
今回のレビューについれはネタバレを多少含んでいる。もしもネタバレを望まないのであればここでプラウザバックして欲しい。









路線変更は少年ジャンプでは割とありがち。
突然のバトル路線はもはやお約束みたいなもの。テコ入れ?行き当たりばったり?そんなの言わせておけ。

……とは言え、今までの路線が好きだったりすると凄くがっかりするんだよね。
ちぐはぐだったりする時もあるし、作風の雰囲気も変わっちゃうし。
まあ、それが少年ジャンプが持つライブ感に繋がっているから、あまりわーわー言うつもりもは無いのだけどね。
結局人気商売で尚且つ、読者との距離が近い創作なのだから、多数の読者が見たい物を見せるのは仕方がない。

「バトルよりも話だ。話。」なんて思い始めたら、もうおっさんの始まりかな。


さて、今回取り上げた『夜の床屋』は元は『インディアン・サマー騒動記』という小説の文庫版で、文庫として発売されるに辺り改題されたという。7つの短編が収録された連作集で日常の謎に迫る、いわゆる日常系ミステリー小説だ。タイトルにもなった「夜の床屋」から「空を飛ぶ絨毯」、「ドッペルゲンガーを探しにいこう」までは、あまり面白くなかった。

寂れ切った町の真夜中に開いていた床屋の謎に迫った「夜の床屋」は、
導入は好きだけど、謎の答え合わせがあまりにも非現実的。

同級生の死とその前後にあった謎を推理した「空を飛ぶ絨毯」は、
登場人物全員の心理描写が薄く展開が全体的に唐突すぎる。

小学生と共にドッペルゲンガーを追った「ドッペルゲンガーを探しにいこう」は、
導入から雑で、展開もちょっと疑問が多い。

ミステリー小説のわりにはこの3つの短編はトリックが非現実的な部分が多くて、しかもちゃんと推理が証明された訳でもない。むしろTRPG(クトゥルフ)のリプレイを読んでいる気分。そっちの方がしっくりくる。一般人に過ぎない1プレイヤーが非日常的な体験をするゲーム・クトゥルフ神話TRPG。非日常の体験というには穏やかだけど、現実味の無さが非日常的だった。

そしてこの本の感想をガラリの変えたのは「葡萄荘のミラージュ1・2」だ。これは主人公の友人一族が所有する洋館・葡萄荘の謎に関わっていく話。そこから物語が変わる。より一層非日常的な物語になっていく。そもそも、謎の多く仕掛けも施された洋館からして非日常だ。そしてある教授からすべての真相はこちらにあると渡された教授作成の小説「『眠り姫』を売る男」を持って、ミステリーからファンタジー小説へと変わり、主人公は一般的な常識や日常では考えられない事柄や物があるという事を知る。そして、今までの事件を「エピローグ」で振り返り、主人公は今まで非日常な体験をしてきた事を悟った。


元々別々に、物語を連結させる意図も無かったという短編を出版する上で1つの作品へときれいに繋ぎ合わせ、連続した物語へと変える。まさかのロボテックみたいな手法でびっくりした。まさか、こういうどんでん返しが待っていたとは思ってもいなかった。最初は全然面白くなかったけど「葡萄荘のミラージュ」からのこの展開の持って行き方には脱帽。これは凄い。そして、最後のページまで読む頃には満足した。だって今までなんだこの短編って思っていた話に意味が持たせ、消化不良気味な謎という小骨が刺さっていた部分が全て抜けてすっきりしたのだから。今まで読んでいた物への見かたも変わる。つまらないと思っていた短編ももう一度見たくなるし、そしてより推測や考察が渋るこの展開が良い。もはやミステリーよりも幻想小説みたいで、とてもミステリー小説とはいえなけれど面白かった。


残念なのは登場人物たちがあまりに無個性な所。無味無臭で取ってつけたかのような、主人公達は他の作品の登場人物でも代用できそうな所が凄く残念だった。もしも、これがよりもっと個性的だったら、物語はさらににぎやかで面白くなっていたと思う。


最初はスロースタートで面白くなくても、終盤では異常に面白くなるなんてまるでターンエーガンダムを思い出すね。あまり熱心には紹介できない本だけれども、このすっきり感。途中で読むのを辞めずに最後まで読んで良かったと思う。このパーチワークのような構成で生まれた本の面白さ。楽しんで欲しいな。

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毎週金曜19時更新。 目に留まった創作物にレビューを書きます。批評家では無いので、凝った事は書きません。文章は硬いめだけど、方針はゆるゆるです。よろしくです。

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