『PSYREN』岩代俊明

2018年6月22日金曜日

岩代俊明 集英社 少年ジャンプ 漫画

t f B! P L
世の中の創作物にあーだこーだ言う。
『独断と偏見とちょっとしたスパイス』

第6回は、『暴王の月』(メルゼズ・ドア)の成長性、そして破壊力はジャンプでもトップクラス。
『PSYREN -サイレン-』 

懐かしい。
連載が始まった頃、自分は中学生ぐらいだった。毎週ジャンプ買えるほど裕福な中学生ではなかったけれど、どうにかこうにか飛び飛びで読んでいた。一見すると『ガンツ』みたいな世界観だったけれど、割かし早い段階でバトル漫画へとなったのを覚えている。ただジャンプに限らずだけど、週刊誌の漫画って実は最初から最後まで通して読むって事はあんまりない。家にあった『北斗の拳』と『花の慶次』ぐらいで、丁度自分の代の少年ジャンプの漫画で最後まで読んだ漫画って無かった気がする。
むしろ大人になって『トリコ』とか全部読んだかな。てなわけで中途半端に読んでいたからこそ、やっぱりモヤモヤしてたんだと思う。ツタヤで見つけた時には、半ば衝動的にレンタルコミックで借りてきたのがこの『サイレン』だ。


物語は、序盤(1~3巻ぐらい)はデスゲーム物。
不良としてそれなりに名を売っていた高校生の夜科アゲハは、小学生の頃からの明るい面影が消え、クールな自分を装いながらも情緒不安定気味な雨宮桜子と再会する。しかし、別れる直前助けを求めた桜子はその後行方不明に。秘密結社サイレンが関わっている事を知ったアゲハは、彼女を探すために異世界へと飛ばされるというテレフォンカードを手に入れて、実際に公衆電話で使う。数日後。テレファンカードの秘密を探る2人組に絡まれたアゲハは、突然電話の音と共に異世界へと飛ばされてしまうそこは荒涼とした大地と、前文明が残した残骸が残る世界。アゲハは生き残りをかけたゲームへと巻き込まれる……。

だけど、デスゲーム物としては序盤だけで、未来と現代を行き来しながら世界を救うタイムトラベルSFと超能力を使った能力バトルへと変わった。個人的にデスゲーム物はあんまり好きじゃないからこの変化が好き。


物語は全体的によくまとまっていて、修行編。現代編。未来編。共にバランスよく描かれていて、中だるみはしなかった。未来の謎やゲームの謎は軒並み回収されていたと思う。ただテンポは良い反面、打ち切りによって終盤の展開は駆け足気味。バトルは全体的に物足りなさを感じるけれど、人を倒した(殺した)時の罪悪感を感じている場面や、そもそも桜子はPTSD気味だったりとリアルな描写が多いのも特徴。これがいい意味でシビアさや緊張感があった。その反面、どうしても規制の厳しい少年漫画よりもヤングジャンプ等の青年誌の方がもっと掘り下げた話が出来たんじゃないかとも思う。SF要素が少し弱かったかれど、パラレルワールドとなった未来と現代。2つの時代で決着をつけるラストが好き。


結局能力バトルになってしまったけれど、シンプルで極力な能力がいい。主人公・アゲハの能力「メルビズ・ドア」も始め、シンプルに身体能力を上げるだけの能力だったり、地味で単純なんだけど強力でえげつないものが多い。遊戯王のサンダーボルトやブラックホールみたいな、あの手の感じだ。

そうそうヒロイン桜子。めちゃかわ。ほんとにかわいい。自分が想像する冷徹な自分を必死になって演じる事(その結果、より本能的な桜子のもう一つの人格・アビスが生まれた。)で、未来の世界を戦っていた桜子。PTSDじゃないかと思うぐらい、情緒不安定さを持ちながらも少しずつ自分の弱さと向き合い、アゲハと共に弱さを克服し成長する。武闘派なんだけど、実は作中1番優しくて、闇を抱えていて心の底から救われて欲しい思えるヒロインっていいね。ノヴァを会得し、アビスと和解した後の桜子・アビスVSシャイナ戦は俺的ベストバウト。たった数ページのかなりあっさりしたバトルなんだけど、桜子の成長を描いた名バトルで、サイレンのバトルでは実は1番好き。

霧崎兜も好きだった。最初こそなんかチャラ男枠(しかも、途中で死ぬはずだったキャラ)だったのに個人的に劇中1番精神面で成長したキャラだったと思う。逃げる事で上手に生きてきた兜が戦いと共に人間として覚醒し、真面目に修行した上で戦った兜VSアッシュ戦なんかも大好き。悪人とは言え殺してしまった事に罪悪感を覚えたビターな決着がとにかくかっこよかった。やっぱり作者が意図していない動きをするキャラって大体面白くなる。

アゲハに対しては言う事はあまりない。
もちろん嫌いとかそんな訳ではない。ある程度完成した主人公なんだよね。アゲハは。アゲハ自身不穏な言動や伏線になりそうな場面があって、実はアゲハ版アビスみたいなダーク化や闇人格の誕生する予定が実はあったのかもしれないと思った。尺の影響で見れなかったけれど。しかしながら、他の仲間は相手を殺した時に大なり小なり罪悪感を感じている中、何の躊躇もなく殺しにかかるところは今どきのジャンプでは珍しいと思う。敵に対する冷酷さ、もし連載が続いていたらもっと掘り下げられていたかもしれない。


ただやっぱり思うのが、世界観を広げたり、謎を増やして考察させたりとか、最初の設定が上手く生かせなかったように思う。破滅的な未来を行き来しながら情報の残片を集めていく。こういう情報を集めて、未来を知っていく展開ももっと見たかったな。霧崎兜のおじきの家に行っておしまいだったから余計に。謎の提示もネタバラシも下手だったから考察し甲斐も無かった。



ジャンプの中では比較的巻数の少ない漫画なんだけど、よくまとまっていて面白い良い漫画。
中学生時代から続いた10年越しのモヤモヤの1つ、取れて良かった。


Amazon他にて、全16巻。発売中。
https://www.amazon.co.jp/PSYREN-1-ジャンプコミックス-岩代-俊明/dp/4088745329

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毎週金曜19時更新。 目に留まった創作物にレビューを書きます。批評家では無いので、凝った事は書きません。文章は硬いめだけど、方針はゆるゆるです。よろしくです。

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