『疾風伝説 特攻の拓』 佐木 飛朗斗/所 十三

2018年7月8日日曜日

講談社 佐木 飛朗斗 所 十三 少年マガジン 漫画

t f B! P L
世の中の創作物にあーだこーだ言う。
『独断と偏見とちょっとしたスパイス』

第7回は、90年代の神かかった少年漫画。
『疾風伝説 特攻の拓』

一部ネタバレあり。注意。














ヤンキー漫画。エロ漫画程では無いもののネットレビュー等を見ていると風当たりを感じるジャンルの一つ。アウトローのジャンルなのだから至極当然だが、やはりたまには不健全さが恋しい時だってある。そうだろう?実は結構好きなジャンルの一つだ。現代社会でスポーツ物を除いた友情とバトル(喧嘩)を描く為にヤンキーものにした漫画も好きだし、本格的にリアルな不良とその時代の空気を描いた漫画だって好きだ。そもそも少年漫画でありがちな主人公のバトルにおける強さに説得力を持たせる為にヤンキー設定にした漫画も好き。元々ヤンキー自体は現実では嫌われ者。だからこそ物語では主人公は性格も良く善人で、悪役は性格も腐った文字通りの悪党。という勧善懲悪で分かりやすくすきっとした話が他のジャンルよりも多い気がする。



さて、今回紹介するのは、
個人的に90年代の少年漫画作品において『スラムダンク』と並び、神かかった漫画の一つ。
『疾風伝説 特攻の拓』(かぜでんせつ ぶっこみのたく)だ。

舞台は族が巷に溢れる程いて、それぞれの集団が抗争しているというマットシティ・横浜。度々警察車両が派手にぶっ壊され、今では新車並みに吊り上がった名車バイク達が派手に転び、壊れまくる。デストロイでバイオレンスな街だ。ただし初代マッドマックスの暴走族よりかはいくらかは凶悪では無く、ヤンキーがそれぞれ思い思いに改造したバイクでゼロヨンする祭り(屋台が出る程盛り上がっている。)や、お寺の境内で族が集まって盛大にライブしたりと実は中々文化的。手違いから県でもトップクラスの不良高校・聖蘭高校へと転校する事になってしまった主人公浅川拓は、優しい一般人枠。どんな奇人や狂人とも仲良くなる不思議な魅力と義理の厚さ、そして自分の弱さや災難を覆す幸運を持ち合わせたラッキーマンだ。そんな彼らとヤンキー達とのバイオレンスで、でもどこか知的な日常漫画だ。



この漫画を読むまでは馬鹿にしてた所あった。「待ってたぜェ!!この瞬間をよぉ!!」なんてシーン。あれなんてもはやギャグじゃん。ネットであふれるこの漫画のネタシーンって、妙にマガジンマーク(「⁉」)多いし、たった1コマから面白いだよ。「ああ、これはシリアスなギャグ漫画なんだろうなって。」って思っていた。でもこれはあまりにも舐めた態度だと思い知らされる。


この漫画は凄い。はっきり言って有害だ。子供がいたら20歳過ぎるか、それなりにまともに成長するまでは読ませたくない。だって、この漫画中学生の時に読んでいたら不良スタイルか、それもとバイクに目覚めていたかもしれないから。それだけの影響力を与えるだけの力があるんだよ。凄い力が。そしてそもそも面白いだよ。


はっきり言ってこの漫画にストーリーなんてあって無いようなものさ。画用紙に好きなクレヨンでひたすらに書きなぐったかのような、そんな展開だ。メインストーリー?主人公の目標?そんなの無い。それぞれが刹那的に暴れ、本当に好き勝手して、挙句の果てには収集がつかなくなって、オカルトチックなパワーでどうにか物語を無理やり畳んで結末となった。


1コマで見るとギャグだったワンシーンが、連続して見ると滅茶苦茶かっこよくなるの。
読んでいて笑ったのは「喧嘩の時間だコラァ」ぐらいで後は逆にしっくりし過ぎて、おかしくなるぐらい。喧嘩シーンは下手な能力バトルよりかも能力バトルしているという狂気の世界。一瞬でナイフを相手に刺したり、標識引き抜いて殴ったりと化け物揃い。そして、バイク転び車が飛び、バイクも車もよく壊れるという景気の良さ。ハリウッド映画並みのアクションにも見どころ。絵はバイクや乗り物の絵は気合入っている。人物はそんなに上手くないのだけれども、でもやっぱりこの絵が好き。



ヤンキー漫画なんだけど、登場するヤンキーがまた知的なのも異才を放つ魅力だね。
天羽こと天羽時貞は過去のトラウマから精神状態は不安定で異常。今だと精神病院行きになってもおかしくない。いつも宮沢賢治の詩(『春と修羅』)を一説を呟いている。根の優しさを破壊衝動とトラウマで覆い被させた複雑な人間だ。そんな感じで、ヤンキーなんだけどどこか知的で心に絶対に曲げられない芯を持った、でも複雑で一言では語れない、そんなキャラがわんさか登場する。人間離れした喧嘩シーンに目を奪われがちだけど、このクレージーなヤンキーたちの愛おしい。


そして天羽が不運な事故でこの世を去ってしまう後の展開は本当にすばらしい。本当に友人が死んでしまったかのような。あの喪失感と、悲しさが蘇ってくる。死に方自体ははっきり言ってギャグだったのに。この漫画は、人が死んだ時のどうしようもない喪失感と、死んだ人間がいつまでもいつまでも頭の中に現れ、どうどう巡りの用にまとまらない考えが沸いてくる。あの感覚があまりにもリアルで、人が死ぬという事と残された人の事を、あれほど生々しく描いた漫画は知らない。



人間を辞めた化け物が暴れまくるえげつなさとハリウッド並みの最恐アクション。
強烈な1コマと頭に残る知的な言い回しが伝説的なインパクト。
メインの物語も目的も何にもないのに印象的な物語が続くというクレージーさ。
この漫画は今まで読んできた漫画の中において異才を放つ快作で奇作。そして、自分の大好きな漫画の1つだ
凄く半端な結末だったけれど、この漫画はあれでしか終われなかったと思う。
ただ、もうあの結末からの直後の続編は見たくないかな。
この魅力は文章では絶対に伝わらない、買うか借りるかしてでも読むべし。

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https://www.amazon.co.jp/疾風伝説-特攻の拓-ヤンマガKCスペシャル-佐木-飛朗斗/dp/4063820653

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毎週金曜19時更新。 目に留まった創作物にレビューを書きます。批評家では無いので、凝った事は書きません。文章は硬いめだけど、方針はゆるゆるです。よろしくです。

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