1917 命をかけた伝令

2021年6月11日金曜日

サム・メンデス 映画 海外映画

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『独断と偏見とちょっとしたスパイス』

第18回は、「一報」を知らせるために地獄をかける。



1917 命をかけた伝令


第一次世界大戦。それは地上に生み出された地獄。

数か月で終わると思われていた戦いは長期化し、

凄惨極まる塹壕戦は膨大な死者を出したのである。

映画の舞台にもなった北フランスには、

現在にも当時の不発弾が残り、

戦地に残った有害物質により立ち入りが制限されている。

政治、外交、戦術、技術、文学、ファッションに至るまで、

この戦争がもたらした物は計り知れない。

そんな空前絶後の大戦争が、100年程前の世界で起こった。


この映画はそんな地獄のとある1日を、

2人のイギリス軍の伝令という視点から切り取った物になる。




硬めの前置きはそのぐらいに、

今回は第一次世界大戦を題材にした

戦争映画『1917 命をかけた伝令』について書いていこうと思います。


この映画は2020年の話題作の一つで、私個人的にも気になっていた作品です。

ワンカットの様に見える様大変考えられた演出と、

CGをあまり使わないリアリティに拘った映画との前評判。期待が高まります。


とはいえ、この人件費が高くつくこの時代。

CMでも流れていた突撃シーンや、大規模な戦争をどこまでの迫力で描けたのか疑問でした。

うろ覚えで恐縮なんですが、確か『独立愚連隊西へ』のオーディオコメンタリーで

岡本喜八監督が、人件費の高騰には苦労しているという旨の事を仰っていました。

(間違っていたらゴメンナサイ。。。)


白黒映画の時代ですら人件費の問題があると考えると、

昔の戦争映画みたいにエキストラがワラワラの大迫力の映画。

というのはもう難しいのかなってのが私の考え。

とは言えCGがその分発達し、

優れた映像作品が生まれている環境下でそんな事を言う事自体が野暮なのですが。

でもやっぱり昔の『地上最大の作戦』に深い衝撃を受けた身としては、

ああ言った映画が作られる環境は残ってほしいなっては思ってました



ただ、そんな考えはこの映画を見終わる頃には、間違っていたと断言できます。

あの突撃シーンはエキストラを使った本物の映像でしたし、

あの戦場の雰囲気は過去の作品とは引けを取りません。

大規模な戦闘シーンは映画全体の尺の中では多くは割かれていませんが、

間違いなく20年代の戦争映画の傑作として、

後世に語られる物になる事は間違いないでしょう。


さて次に、この映画の魅力、迫力の映画体験をまとめて行きましょう。


まず、この凝りに凝った映画のセットが素晴らしい。

美しい草原から、雑多な人種が集まる後方のイギリス軍陣地、塹壕陣地。

※無人地帯とドイツ軍陣地。破壊された町。荒れた農園。

映画の世界観を説明して余りある拘りは、深い没入感を生みます。

面白い作品というは漫画にしろ、小説にしろ、

世界観を伝えるのが上手い作品だと思います。

そして、世界観が深化すればするほどに、匂いや空気。

人々の感情が勝手に想像できてしまう。

そこで初めて、世界観に取り込まれる感覚がするのです。


※相対する両陣営の塹壕の境目の場所を指す。

 敵の侵入を拒む有刺鉄線や腐乱死体が残っている事も。

 映画内ではハエのたかった軍馬の死骸や死体が多数転がっている。


だから私は世界観が一見無意味な程に凝った作品が好きなのです。

『王立宇宙軍 オネアミスの翼』みたいなの。

何となく伝わるとうれしい。



そんな世界観の中で、計算に計算を重ねた演出が作品をより高度にします。

ワンカットの様に見える演出は、さらなる没入感を生み出しました。

カメラワーク的に最新のゲームの様な印象を抱きましたが、

イギリス陣地のワラワラとした最初のシーンやイギリス軍の塹壕を主人公らが歩いていく。ただそんなシーンだけでも、味があって、見ごたえがあります。

ただの映画ならばそんな見どころではない序盤のシーンから、

見どころを作り上げる絵作り。

物語としてはあまり進展の無いただの場面ですら見どころにしてしまう。

この技量はさすがだと思います。




ストーリーはとても簡素です。

あるイギリス兵。

トムとウィルが最前線にいるデヴォンシャー連隊に攻撃中止の命令を届ける為に、

敵が撤退したとの情報が流れている敵の塹壕を越えて、

草原、破壊された町、森を抜け最前線にこの命令を届ける。

猶予は1日。

ドイツ軍の罠や狙撃兵。本隊からはぐれたドイツ兵士と言った敵軍や、

はたまた進軍する友軍との出会いと、戦地はとても混沌としている。

敵と味方が分かれたこの危険な場所を昼も夜もかける。ただ味方に伝令を渡す為に。


どことなく太宰治の『走れメロス』を連想するストーリー。

あまりドンパチな映画では無く、あくまでも過酷な伝令という仕事を描いている。


フィクションとしての面白さを出しつつ、第一次世界大戦の過酷さを描いた。

このバランス感覚がとても良かった。


活劇でもある一方で、戦争映画としてのリアリティを持たせたのだから。


このストーリーはサム・メンデス監督の祖父の実体験が元になっている。

祖父が孫に語った戦争体験。

これを多少はオーバーにしているかもしれないが、この話を映画として描いた。

もしかすると、

祖父が見た戦場を映画という形でメンデス監督は見たかったのかもしれない。

それが戦場を実体験させる。この没入感に繋がったのだと思う。




実は私はあまり映画館で映画を見るのはあまり好きじゃないだよね。

長時間座ると体は凝るし、周りには気を使うし、代金もそれなりに高い。

大きい音も苦手だし、「ああ、もう家でいいか。」って思ってしまう。


でもこの映画は違う。

劇場で見とけば良かったと後悔している。


あの大スクリーンならば、どんな見え方がしたのだろう。


もう遅い。後悔の一つになってしまった。



もしも戦争映画を見れる人だったのならば、ぜひ見てみてほしい。

20年代の傑作映画の一つとして語られる映画になるのだから。





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毎週金曜19時更新。 目に留まった創作物にレビューを書きます。批評家では無いので、凝った事は書きません。文章は硬いめだけど、方針はゆるゆるです。よろしくです。

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