産交バスの終点へ 熊本県下全終点の記録 ーマニアの情熱が生んだ力作ー

2022年8月19日金曜日

読書

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独断と偏見とちょっとしたスパイス 28回

産交バスの終点へ 熊本県下全終点の記録 
「産交バスの終点へ」編纂委員会

ーマニアの情熱が生んだ力作ー




 筆者撮影


方はバスに乗っていますか?

地方じゃあまり乗る事が少ないと言われるバス。
でも、私はたまに乗ります。

熊本市内行く時にはやはり、公共交通を使うに限る。
電車やバスの方を併用した方が後々楽でいい。

渋滞だらけ。車だらけの市内をあまり走りたくない。

市内のタクシーの運転手が前に,
「熊本市は道路の整備に失敗した街だ。」ってぼやいていた。

ラッシュ時には街の道路が渋滞で麻痺する街。熊本市。
(地方の渋滞もわりとヤバめ。大矢野の住民はあの大渋滞の中での生活している。苦労が絶えないと思う。)

道路は老朽化で穴ぼこだらけ。
そして、その穴ぼこだけを補修する工事をするものだから、
道路はパッチワークみたいになっている。

白線も消えてたりで、なんかもう大丈夫かって心配になる程。


そんなのだから路面電車が生き残れたのだと思う。




さて今回紹介する本は、こちら。
『産交バスの終点へ 熊本県下全終点の記録』
「産交バスの終点へ」編纂委員会


ネットか、蔦屋書店三年坂店の地下一階にこの本は売られている。
私は蔦屋書店で異彩を放すこの本を手に取った。


産交バスとは、熊本県内に広く路線網を持っているバス会社。

白と青の特徴的なカラーでおなじみで、
熊本ならよく見かけるバスの一つだ。


元々自費出版にて販売された物。
県内外のバスマニアの4人が、平成11年以降現存した路線バスの終点を巡って、
その写真や原稿を通してそれを記録としてまとめたものになる。

ちなみにハイエースを使ったバス。
通称「まめバス」まで、書かれている。

何という情熱だろう。

そのページ数は圧巻の141ページ(プラスα 後述)

確かにバスの終点にまで関心は中々行きにくいものだ。
しかし、どんなものにも終わりはある。

その終わりに、この本は迫った。


鉄道と違い、バス路線やバス停の廃止というのは話題にもならない。

そもそもニュースサイトで取り上げられる事も無いし、
地元で住んでいるか。余程アンテナを張ってないと解らない事だ。

事実、地元にある紹介された終点の一つは、
てっきり今でも存在している路線だと思っていた。

でも今では存在していない。平成のうちに終わっていた。

周りにもそれなりに住宅地もあって、子供も多い地区だった。
それだけにバスが無くなっていた事に驚いた。


それだけモータリゼーションが進み切った田舎では、
敢えて時間に制限がかかり、不便な路線バスという選択肢が無いのだろう。

実際書籍内で紹介されている終点の8割近くの駅は廃止され、
今現在その役割を終えている。

バス路線やバス停の廃止を通して、以下の事がわかる。
  • 集落の終焉。
  • 農村の過疎化。
  • 道路が整備された為、住民がバスから車へと移行が進んだ。
                               
バス路線の廃止は、
時代の変化と数百年間続いていた農村集落の終わりを見ているかの様だった。

この書籍の最初の印象とは反し、哀愁漂う読書になった。

あと、写真を見る限り電車の秘境駅と大差ない所がある。
これもまた衝撃。

ローカルバス秘境駅巡りも、帰れる保証があるなら楽しそうだ。


文章は基本的に路線の開設やその誕生した経緯。
その地名について解説したものになるが、
時々筆者のエピソードが挟まれてりして、単純に読み物としても面白い。

特徴的なエピソードや興味深い話だったのは、
岩下(菊池市)と古薗(旧八代郡泉村)。

前者は、筆者が乗った日は路線運航最後の日という事で、
ささやかななセレモニーが行われると共に、
お礼を言って降りる老婆のエピソードが印象的だった。

後者は、バス停のある集落で雇われた乗務員が朝バスに乗り集落から路線を始め、
帰りは戻りのバスを運行し、終点の集落で帰り帰宅する。

こういった運行方法もあったのかと、興味深い。

採用に関する経緯とか、当事者の方に聞いてみたいと思った。




ちたみに、この本には82.3ページと82.7ページがある。

どういう事かと言うと、
どうも集完了後に未掲載だったページがあったらしい。

正規の本ならば乱丁だ。
しかし、この本はそれを解決する為に、
そのページを印刷し、のりしろの部分を追加して、
そのまま本に挟むという手段を取った。

分かりにくいけど上のページの右端の黄色の部分は、のりしろ。

不器用な私はのりをつけると他のページにひっつけて、
ページがめくれなくなりそうな気がしたので、ただ挟む事にした。

こういう力技は好きだし、色々その後ろにあっただろう混乱や後悔を考えると、
自費出版の苦労がここからも伝わってくる。


一部画素数の問題か、あまり綺麗とは言い難い写真も混ざっている。
そこがこの本唯一の残念なポイントだ。

しかしこれは製作者側も同じ事を考えていると思う。 

写真を撮った時の機材の良し悪しもあるだろうし、
20年以上コツコツと回られた中で撮られた写真。

誰でも簡単に過去のデジタル写真を修正するソフトがあればって。
無いものをねだった。




ろしい程の時間と資金を使い、
熊本各地をフィールドワークした上で生まれた力作。

この本を作り上げる情熱と、消えていったバス停・バス路線に対する哀愁。

静と動。相反する要素を兼ね備えた1冊になっている。


この様なペッパーバックが「はしがき」の通り、
後世に伝わる歴史資料のひとつになる事を信じて、筆を置きたいと思う。


余談。
個人的に小谷(こたに)って書いて「おやつ」と読むバス停とか、
相良観音(さがらかんのん)と書いて、(あいらかんのん)と読むバス停とか、
無駄にKAWAII感じの地名があるのも好き。

昔の人が考える地名のセンスも優れているよね。



ネット販売サイト 
ネットではboothより販売 
https://booth.pm/ja/items/2325056

リアル店舗では、
蔦屋書店三年坂 
https://www.sannenzaka.jp/
在庫のあるなしについては、書店にご連絡を。

熊本日日新聞にこの本に関する記事がありました。

「終点巡り、バスは走る」 九州産交の133カ所、マニアが趣深いエピソード集

https://kumanichi.com/articles/3069



ここでは取り上げませんが、著者さんの1人がツイートもされています。
覗いてみるのもいいでしょう。



来週の独断と偏見とちょっとしたスパイスは、

ムーンフォール
 ─迫力は満点。しかし、古臭さは否めないB級SF映画。─



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それではまた来週お会いしましょう。





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