浮浪と盗賊 岡本堅次 ─日本史上最も混沌とした社会情勢と大衆・支配階層のせめぎ合い─

2022年11月18日金曜日

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独断と偏見とちょっとしたスパイス 39

浮浪と盗賊 岡本堅次
─日本史上最も混沌とした社会情勢と大衆・支配階層のせめぎ合い─















精選版 日本国語大辞典「暗黒時代」の解説

あんこく‐じだい【暗黒時代】

〘名〙
① 戦乱や圧制などによって、道徳や文化が衰え、社会の秩序が乱れた時代。
「コトバンク暗黒時代とは」より引用。
https://kotobank.jp/word/%E6%9A%97%E9%BB%92%E6%99%82%E4%BB%A3-29128




日本史にはヨーロッパ史の様な暗黒時代という言葉は無いが、
現代人はその歴史の一側面を切り取って「暗黒時代」と定義している事がある。

それは、厳格な身分制度によって生活全般が制限されていた江戸時代か。
こういった意見はここインターネット上には時折散見されているが私はそうは思わない。

治世の問題もさることながら、
時折数万規模の犠牲者で出る様な天災に度々見舞われる時代ではある。
しかし、その中で様々な階層の人々が現代に繋がるカルチャーを生み出した。

日本規模で開発が進んだ時代であり、
その経済圏は広がりにより中世以前の日本よりも、遥かに豊かになった。

時代の暗部はある。現代に残る課題も与えた時代でもある。
だから過剰の美化に対しては不満はある。
一方で、度の超えた批判に対しては納得しかねる。



ならば戦国時代は暗黒時代か。

それも私は違うと思う。
確かに戦国期の日本はその全域で地域紛争に明け暮れた戦乱期である。
各地で大小様々なジェノサイドが起こっている。

しかし、それでも一定の秩序はあった。
自力救済の原則が強く封建制の時代ではあるが、
一方で各地の戦国大名は分国法を成立させ、法による統治を指向している。


第二次世界大戦終戦直後の日本か。

一部詳しい実情が不明とされる古墳時代か。



私は平安時代にこそ、
日本史上もっとも混沌とした、暗黒時代では無いかと考える。


今回紹介する『浮浪と盗賊』で民草視点で描かれた古代の実情は、
地獄であり、混沌であり、まさに末法の世界である。

この辺境のブログに訪れた各人には、私が感じた衝撃をぜひ体験してい欲しい。

1980年頃に発行された書籍の為情報が古い事は間違いないだろうし、
そもそも入手するのにも一工夫がいるものだが、ぜひ手に取って欲しいと思う。










大化の改新から始まる日本の新時代は、
中国からのもたらされる先進的な文化を吸収しながら、初めて律令制を導入した。
やがて日本独自の文化を作る土台の基礎を作り上げる事となる。
まさに「日本文化のあけぼの」

時折戦役や刀伊の入寇等の危機が訪れる一方で、
平安時代へと時代は下ると、様々な文学作品も生まれる優雅で雅な時代。

……というのが奈良時代から平安時代末までの印象だった。

しかし、それはあくまでも一部分に好きなかった。


この本は大化の改新から平安時代末までの大衆の生活へ視点を合わせる。
律令国家の成立と法体系の整備が整う事で、日本は新しい時代が始まる。

しかしその重すぎる税制システム・労役と低い農業生産性と食料不足。
例年続く天変地異による飢餓によって生活が破綻。

村々から逃走し各地を浮浪する農民たちがいた。

そしてそんな生活苦から盗賊になったものもいる。

そんな状況の中で朝廷は飢餓に苦しむ民を救済する為に活動する一方で、
浮浪する農民や盗賊に対しては罰をもって、統治システムを維持しようとする。




しかし、やがて律令制の限界を訪れる。

浮浪者に対する差別政策を行うが、それが維持できない程に統治システムは崩壊。

農民の逃走は相次ぎ、
地方の有力勢力による荘園支配の強化に先立ち、
労働力の確保の為浮浪農民の取り込み、荘園の小作人とする活動が本格化する。

また浮浪農民からも財を成し力を持つ者を現れる一方、
盗賊は群立し、海賊も生まれ、内裏には強盗が入る始末。
また貴族子弟が盗賊に参加する事あった。

中央から派遣された国司を自身の権益の為に殺害する地方の有力者。

農村部に残った農民は税を逃れる為に戸籍を改ざん。

人身売買に出された奴隷は元の主や故郷に帰る為に脱走する。

刑務所の囚人も数百人単位で脱獄、または大規模な蜂起が発生する。

破戒僧がギャング化し、破戒僧の集団によって猟奇的事件が起こる。


そして、その間も飢饉や疫病、天災は絶えず。

ついに律令制は形骸化してしまう。

そんな社会情勢下においても、盗賊の取り締まりを朝廷は行っていたが、
もはや追い付かない程に世は乱れ、誰もが生き残るのに必死な時代がやってきた。






私は絶句した。

混沌がやってきたのだ。なんだこの地獄は。末法世界は。

核戦争が起きるはずの無い時代でこの有様はある意味、
『北斗の拳』よりも酷い。中々にポストアポカリプスな世界である。

こんな時代が日本史にあったのかとただただ絶句してしまった。

まさに芥川龍之介の『羅生門』の世界が広がっている。




この本は大化の改新から始まり、
律令制成立後の統治システムの中で翻弄された農民がやがて農村を逃走し浮浪者となり、
またその一部が盗賊として、当時の世界においてどの様な影響を与えたのか。

そして、そんな社会情勢に対して朝廷はどのように対策を施したのか。

綿密にまとめられた書籍になる。

約40年前の書籍もあってか大変読みにくい本であり、
多少の基礎知識は持ち合わせていないと満足に読めない本である。

しかし、その混沌に満ちた社会情勢は、少なくとも読むと解るはずだ。


それにここから平一門が台頭し、源氏との戦いが始まると考えると印象深い。


また奴隷の売買が確認されている一方で、
奴隷市が生まれない程に経済は未発達だったと書かれている。
貨幣制度が生まれながらも、商業はあまり発展していなかった。

これは朝廷による統治の限界だったのか。
商業については、こちらかも学びたいと思った。





まさか歴史系新書でここまでのカオスな世界が見されるとは思っていなかった。

そして、着地点で見えない時代から鎌倉時代が始まると思うと、
ある種、人々の進歩を感じさせる。


朝廷の政治力の弱体化、社会全体の食料不足、重税が
ここまでの地獄のような時代を生み出したと思うと興味深い。

生きるには過酷すぎるこの時代。
雅な側面だけではなく、暗部についてもよく学ばなければならないと考えさせられた。


良かったら
この日本史上最もポストアポカリプスの世界観に近い時代を、
この書籍から読み取って欲しいと思います。


購入の際は、『日本の古本屋』を活用するのがおすすめです。
URLは下に記載しているので、良かったらあなたもどうぞ。

『日本の古本屋』 浮浪と盗賊 教育社歴史新書
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