くろぼね 真鍋譲治  ─果たしてバウは「総統」と同じ結末を歩むのか─  

2022年12月23日金曜日

真鍋譲治 漫画

t f B! P L
独断と偏見とちょっとしたスパイス 42


くろぼね 
─果たしてバウは「総統」と同じ結末を歩むのか─




Amazonより引用




現代人はナチスドイツの機密情報を知る事が出来る。

ホロコーストの全容も。自国民をターゲットにしたプロパガンダも。
戦争計画も。戦争勝利後の新秩序も。

もしもドイツが第二次世界大戦に勝利していたら世界はどうなっていたのだろう。


考えるとただ寒気がする。


ナチスの歴史を学ぶ程に、その全容が埋まっていく。
その狂気の内容はもはや創作を越えていて言葉が出ない。


そして、少なくともドイツが戦争に勝利していたら。
この事が公に出る事は無かったのかもしれない。

その事が私は一番怖い。








さて今回紹介する作品くろぼねは未完の作品。
理由もわからないまま打ち切られ、同人誌として今もその続きが描かれ続けている。
基本的に未完の漫画は扱わないと決めていたが、
敢えて今回は取り扱う。



人は全て犬に擬人化された世界。
私達の世界の歴史と大体同じ経緯でエウロパ大陸では第一次世界大戦が行われた。

兵士達は壁にぶつけられたトマトのように散っていき……

という言葉の通り膨大な死傷者を出した戦いは、諸問題を解決する事は無く、
ただガルマ王国の敗戦をという結果だけを残した。


そんな暗い冒頭から始まるくろぼね

この漫画の特徴はナチスドイツをモチーフに、
その始まりを描こうとしている事にある。


第一次世界大戦に敗戦後の混乱状態のドイツの中でナチス勢力が力を持ち、
極めて民主主義的だったワイマール共和国で政権を確保し、ドイツ第三帝国を生み出した。


それをこの漫画は描こうとしている。



勿論、全てを再現している訳ではない。
ドイツの歴史にはあまり知識が無いので多くは語れないが、
一番大きな点として今のところユダヤ人の迫害政策に始まる。
極端な人種政策を訴える描写はされていない。

あの有名な「背後の一突き論」も内容は少し違っている。
この辺は「大人の都合」もあるのだろう。


そして一番大きいのは、主人公で総統役を演じるバウは、
「総統」とは違う経歴を持っている事。


バウは大学生で軍人経験は無し、画家志望でもなんでもない。
ただのお兄さん。性格も穏やかで友達にも恵まれている。

そんな人がたまたま政治集会に紛れてしまった事をきっかけに、
どんどん政治の世界へと足を踏み入れてしまう。

物語は今はミュンヘン一揆からの投獄と釈放。

そして「くろぼね」の旗を掲げて、
政党内でその地位を確立する所まで今現在(2022/12/18)まで描かれている。


彼は「総統」と同じ結末を歩むのだろうか。

それとも彼は違う道を選択するのか。

『キングダム』みたいにその結末を読者は知っているだけに、
その結末に向けてどんな物語が待っているのか。楽しみなんだよね。


また、作品的にどこまで描かれるのかが気になっている。


それこそ「総統」の最期まで描かれるのか。
それとも第三帝国の成立で物語が終わるのか。


未だ物語の終着点が見えないままだから、続きが読みたい。




もう一つ気になっている存在。それはラインハルト侯爵夫人。
未亡人で、バウ達の政党のスポンサーをしている。

物語自体には要所要所で現れるミステリアスな女性。
何やら秘密結社にも参加している様子で、
バウの運命を決める1人になりそうだ。この辺の伏線も気になっている。

侯爵夫人の目的。これが作中見れたらいいなって思う。



個人的に好きシーンがある。

特に政治思想を持っていなかったバウが、
赤色革命後のガルマの首都・ガイヤールを訪れてその狂乱の様子を知る。
友人に送った手紙の冒頭は「親愛なるハンスへ── ガイヤールは地獄だよ」から始まる、
大勢の血が流れる首都の様子を実際にこの目で見て、
政治に関心を抱き、何かを掴もうとする。


それがバウの出発点で、そこから政治の世界へと進む大きなきっかけになった。

凄惨な場面が続く一方で、
犬だからこそ、そんな場面も少し柔らかくなっている。

ただの青年だったバウがここで政治家としての思想の根底を積み上げる。
そんなきっかけの場面。物語的にも重大な、そして見ごたえのある場面だった。



人間全てが犬なだけに所々『名探偵ホームズ』みたいな雰囲気も醸しながら、
全体的に描写、戦車や戦闘機のイラストも凝っている為に、
単純にパラパラめくるだけでも楽しい。それもこの作品の魅力。

ただこの書き込みの多さもあって、中々続編が描かれる事は無いのだろうなっては思う。

しかし、画のレベルが落ちた『くろぼね』は見たくないという贅沢な要望。
むしろいつかフルカラーで読みたいまである。


今の感覚で言えば少しレトロな作風にもとれるが、
それが逆にニューレトロな感じがして、すごく好き。





『くろぼね』は現在4巻まで発売中。
連載元の無い同人誌化した作品とあって、続編の望みはそう多くない。

しかし、いつか新作が読める事。

そして完結する事を望みたいね。

わりと電子コミックを配信しているサイトで読む事が出来るけど、
「Kindle Unlimited」でも配信されているので、
もしも会員なのならばそれで読むのも手だと思う。


こうやって未完の作品が電子書籍を通して発売される今。

私はその恩恵を受けている反面、
原稿料が発生しない連載形態だから続編が中々読めないジレンマを感じている。
世の中って中々うまくいかない。

Amazon くろぼね1


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毎週金曜19時更新。 目に留まった創作物にレビューを書きます。批評家では無いので、凝った事は書きません。文章は硬いめだけど、方針はゆるゆるです。よろしくです。

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