独断と偏見とちょっとしたスパイス 51
奴隷の躾け方
現代にも通ずるローマの奴隷マネジメントとは
著者 マルクス・シドニウス・ファルクス氏。
解説 ジェリー・トナー氏。
翻訳 橘明美氏。
Amazonより引用
こういったサイトを運営する上での教訓めいた話がある。
もちろんこの本にもまつわる話だ。
この本はローマ貴族、
「ジェリー・トナー マルクス・シドニウス・ファルクス」氏によって書かれた本である。
……もちろんこのローマ帝国貴族はフィクションであり、
本当の著者・ケンブリッジ大学のジェリー・トナー教授によって生み出された存在だ。
まるで日本の「漫画でわかる日本の歴史」とか、
そういう類の教育漫画みたいな手法が海外にもあるという事に不思議な感動を覚えたが、
それはさておき、この本を読んでいる時の事だ。
この貴族は実在しているのか。それともフィクションなのか気になった。
正直冒頭の「著者挨拶」のページからフィクションぽさはあったのだが、
これだけでは断定は出来かねない。
そこで私はグーグルで調べてみる事にした、そしてAmazonの奥地へとたどり着いた。
Amazonにあるこの本のレビューを見ていると、
上位レビューに題名に作者は実在すると書いてあるものがあり、混乱してしまう。
しかし、それ以外のサイトや他のレビューでは架空の人物とも書かれている。
嘘つきは誰だ。
そして、この問題の回答は、
『奴隷のしつけ方』(ちくま文庫版)P272 「訳者あとがき」にてわかった。
このページではっきりと架空の人物だと明言されていたからだ。
Amazonのレビューって意外と信じてしまいやすい存在。
そのレビューを読む限りそれらしい事も書いている。
なるほど、こうやってデマを発信するのかと関心してしまった。
母国語が日本語の私達には、英語圏の情報を調べる術が無い。
ただ一方で簡単にフェイク情報が発信できてしまう事に対する恐怖を感じた。
このサイトでは歴史書も取扱っている以上、
正確な情報を読者に伝えられるように気を付けないといけないと思った。
こんなネットの大海にある泡沫ブログでもね。
さて、今回取り上げる作品は『奴隷のしつけ方』です。
ローマ帝国の貴族・ジェリー・トナー マルクス・シドニウス・ファルクス氏。
解説はケンブリッジ大学教授。ジェリー・トナー氏。
そして翻訳は橘明美氏。
以上の3名によって制作された。
このタイトルをグロテスクに感じるか。
それともエロティックに捉えるかは各自にまかせるが、
このブログの収益化のはく奪もあり得る題名なのは間違いない。
職場でこの本を紹介した時にはドン引きされたし。
しかし、タイトルでこの本を読まない選択肢を選ぶのはもったいない。
、
部下との人間関係を説いたどのビジネス本よりも刺激的で、
人間の本質を突く鋭い観点を持ち合わせた本は中々無いからだ。
歴史本としても面白いだけでは無く、
ビジネス本としても楽しめる一冊に仕上がっている。
特に部下を持った、後輩を持った人におすすめしたい。
後輩や部下を奴隷扱いするのは悪趣味極まりないが、
人を動かす事に難しさを感じている人間は是非とも手に取って欲しいと思う。
今回の独断と偏見とちょっとしたスパイスでは、
『奴隷のしつけ方』を何故私が勧めるのか。
まとめていきたいと思います。
この本の魅力。
一つにローマ帝国における奴隷の一連の境遇について学べる点。
奴隷を使役する立場の視点から書かれた書籍が、この世界にどれ程あるのだろうか。
奴隷の買う場所のアドバイスから、奴隷選びのコツ。
仕事の割り振り方。奴隷に対する意識の持ちよう。奴隷に対する刑罰の与え方。
奴隷への拷問。奴隷反乱の歴史。奴隷の解放と解放奴隷との関係性についてまで。
事細かく奴隷の扱い方についての学びが始まります。
その扱いは遠い未来、
プランテーションで強制労働に従事した奴隷達よりかは幾分マシかなってレベル。
日本で言う年季奉公に近い印象。地獄には変わりはない。
生きている間に解放される可能性があるだけでも、まだマシなのかもしれない。
解放奴隷となれば同じローマ帝国の国民になれるチャンスはある。
例え戦争捕虜でも解放奴隷になれば、帝国の市民としての権利が与えられる。
その辺については奇妙にも感じる側面ではある。
元奴隷がローマ社会へとどのように同化していったのか。
そもそも出来たのか。その辺の疑問は絶えない。
ただ当然の事ながら衣食住は制限され、法を破れば理不尽な拷問や処刑を行われている。
例えば強盗に脅された少女奴隷が主人を守らず、結果主人が強盗に殺害されて事件では、
少女奴隷は「主人を命をかけて守らなかった。」という罪で処刑されている。
一般的なローマ市民よりも死は近いのは確かだろう。
著者のジェリー・トナー マルクス・シドニウス・ファルクス氏は規範意識が強く、
ローマの法に則って奴隷を扱う事に細心の注意を払っている。
その一連の文章を通してローマ帝国の法は、
一体どのように奴隷の生命を保護し、またある時にはその命を奪ったのか。
ローマ帝国の奴隷に対する法律に関する知識が深まるだろう。
そして主人と奴隷によっては個人個人でその関係性が変わる事もある。
この様に奴隷によって待遇に天と地の差がある、
複雑怪奇なローマの奴隷制度の実態ははたしてどのようだったのか。
こんな立ち入った話をローマ帝国の貴族本人から直々に聞ける。
というのは新鮮であり、歴史書としても読み応えがあるでしょう。
個人的に奴隷同士の結婚、そして妊娠、生まれた子供の扱いが
あまにもシステムチックすぎて驚いた。
- 彼の場合は貢献した奴隷に対する恩賞。
- 奴隷に家族を与える事で脱走防止。
- 奴隷が子供を産む事でさらなる労働力を得る。
という3つの意味合いがあるとの事だ。
ちなみに奴隷の生んだ子供は情操教育(意訳)が普通の奴隷よりも楽らしい。
ちなみに結婚した奴隷が解放奴隷になった場合は、
子供を一人家に残す事を条件にする。
それによって労働力の維持を図ると共に、
解放奴隷が子供を買い取り、取り戻す際に利益が生まれるから。
結婚というシステムをあまりにも合理的に利用する様は、
さすが奴隷の主といったところか。倫理観が現代価値観で見れば狂っている。
こういった合理性の行きついた先にある、倫理観や人道主義からも外れた発想。
人間性を捨てた先にある世界を覗く事がこの本ではできます。
やはり人間の業には不思議な魅力がありますね
2つ目は奴隷の扱い方を知る事で人間の動かし方について学べる事。
この本はローマ帝国奴隷制のマニュアル。
ローマ帝国の貴族が直々に我々日本人に奴隷を用いる術を余すことなく伝えてくれる。
もちろんローマ帝国の法を則りながらであり、
現代日本においては一部の手段は決して有効では無いが。
彼は傲慢ながらも知性とローマ市民として倫理観を持ち合わせ、
手段と方法を取り違う事は無く、的確な信賞必罰で奴隷を指導し、
自身の財を増やす事を目的にしている。
時には拷問や業者を雇い私刑を執行する。
冷徹な側面が垣間見える。
しかし、ストレートな文章で書かれた人心掌握術は、
2000年後の我々でも生かす事でできるだろう。
もちろんギャングスターではない。我々一般人でも。
特に彼の遵法精神と奴隷を公平に評価する判断基準。
これらは彼の美点と言っても過言ではない。
そして、奴隷達が起こした過去の反乱の歴史を途中で挟みながら、
彼らを制御する為に必要な心得についてよく教えてくれる。
そしてそれらのテクニックは我々でも生かせるはずだ。
歳を取れば嫌でも人の上に立たないといけない瞬間がある。
その時に、この本は読者を指導してくれる優れたマニュアルになるだろう。
私はこういう書き手の倫理観がおかしい本が好き。
実際に会うのは憚れる人間でも、本の世界では容易に会えるから。
ただ歴史好きの人間に聞きたいのだけど、
興味のある歴史を学べば学ぶ程にその時代の価値観に感化されて、
自身の価値観が変容している様な、そんな瞬間ってありませんか?
私はそんな事を感じる瞬間があるから、歴史書を読むのが怖くなる時がある。
こういう倫理観がおかしいコンテンツに触れた時にも、ふと怖くなる時がある。
この本には、自身の価値観に影響を与えかねない様な怪しい面白さと、
多くの学びを読者に届けてくれる本だ。
この本に書かれている内容の中には、現代日本では使えない方法も多数ある。
そもそも日本では奴隷制度は廃止されている。
しかし「社畜」という言葉がある通り、現状はそこまで改善されていない場合もある。
この本を悪用するか。それとも、より現代日本向けにアップデートするか。
この「黒い」マニュアルは現代社会でも色あせる事無く通用するだろう。
日本の歴史漫画の様にローマ帝国の奴隷制度を学べると共に、
人の動かし方についても学ぶ事の出来る恐るべき本だった。
もしも興味を少しでも感じたならば、ぜひとも読んでみて欲しいと思います。
公式サイト
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480436627/
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