来る ─空っぽ夫婦の悲惨な末路と大集合除霊バトル─

2023年7月14日金曜日

映画 中島哲也 東宝 日本映画

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 独断と偏見とちょっとしたスパイス 56

来る ─空っぽ夫婦の悲惨な末路と大集合除霊バトル─




映画.COMより引用



Twitterで見ているとたまに流れてくる。

『来る』の話題が。

かっこいい柴田理恵。
モブキャラのセリフ「たった一人でも辿り着いたら御の字やろ」
全国からより選りの専門家たちによる除霊バトル。
呆気なく死んだ強キャラ感が半端ない沖縄シャーマン。


PVを見た時はまあ普通のジャパニーズホラーって感じ。
不気味で不快感を煽るPVではあるものの、
一体何がファンの熱量を与えているのかわからなかった。

だからこそ、このファン層達の熱意の源になっているものは何なのか知りたくなった。


Twitterを見ていると、もはやカルト映画の類に達しているように思えた。

この映画は公開されたのは2018年。
この文章が書かれているのは2023年だから、早5年も経っている事になる。
しかし、公開から5年も経った映画の話題が未だされている。
掘り返されているのだから、強烈に刺さった人たちがいるのは確かだろう。


さて今回は日本のホラー映画。
『来る』を取り上げたいと思う。


今回のレビューはネタバレ多め。
みたいと思う人は
ブラウザバック推奨します。


あらすじ

物語はある夫婦の結婚から始まった。

夫の田原秀樹はその明るいキャラクターで、
周りの人間を楽しめるムードメーカーでイクメン。

……というキャラクターでブログを作り上げているものの、
実際は家事や子育ては妻に任せっきり。Twitterだと中々にヘイトを買えそう。

結構序盤から見てくれだけの空っぽな有様を周りからは見透かされている。



妻の香奈はあまり前に出るタイプでは無く、静かに黙々と家事をしている。

実は単純にコミュニケーション能力が著しく低いから自己表現が出来ない。
しかもその割に承認欲求とか被害者意識は強いからタチが悪い。
シンプルに社会不適合者ギリギリのライン。 

実の母親を嫌いながら、その実母親と同じ生き方しかできない空っぽな人。


娘の知紗は、まだそこ4~5歳ぐらいの子供でオムライスが好き。

甘えたい年頃なんだけど、その破綻した生活の末で「ぼぎわん」の深く繋がってしまう…。


そんな3人の崩壊した結婚生活の果てに、謎の怪物「ぼぎわん」が来る。

「ぼぎわん」はターゲットに幻覚を見せたり、残虐なぐらいに暴力を振る未知の存在。
その陰を見た秀樹は友人で民俗学を専攻している准教授津田の紹介で、
津田から「クズ」と評された何でも屋のライター・野崎と、
霊媒師でキャバ嬢の比嘉真琴を紹介されるが、「ほぎわん」にはかなわない。

そこで真琴の姉で日本でも有数の霊媒師・比嘉琴子の協力で要請し、
その怪奇へと挑む。ジャパニーズホラー。




この映画は主に三部構成となっている。

一つは秀樹視点。
一見するとSNS時代の強者。「キラキラな私」をプロジュースするのが上手い。
だけどそれだけ。中身は無いし、家事も全て香奈に任せっきり。
人によっては殺意を持たれるレベルで嫌われる男。

そんな男の「キラキラ」生活が徐々に「ほぎわん」に壊されていく様と、
その内面が見透かされていく様が描かれている。

最終的には野崎や真琴との協力を依頼するが、悲惨な最期を迎える。
途中で琴子から助っ人として派遣された逢坂セツ子こと・ワイルドな柴田理恵も、
返り討ちに遭い腕を飛ばしてしまう。


私個人としては、序盤の展開の方が実が好きだったりする。
今っぽいキラキラした男がどんどん破滅へと落ちていく描写は、
露悪的ながらも現代的な怪談へと昇華していたと思う。

ネットではキラキラを演じていながら、リアルでの生活とはずれている。
こういうネットで着せ飾るインフルエンサー詐欺行為はSNS時代ならでは。
よく聞く話ではあるものの、それをここまで悪趣味に描いた分見ごたえはあった。


そして映画のノリも、ポップなんだよね。「モダン」ではない。ポップ。
ホラー映画というと手垢にまみれた展開だったり、そもそも展開が遅かったりするけど、
この映画は結構その辺はキャッチーな感じで、不快な描写も結構さらりと見れてしまう。

正直怖さとか恐ろしさとかは薄いのだけど、でも見れてしまう。


見ていて共感しやすい、現代風の怪談になっていたと思う。



二つ目は香奈の視点。
秀樹の死後。シングルマザーになった香奈の困窮ぶりと、
その破綻した結婚生活と、家庭内での秀樹の正体が描かれている。

最終的に香奈は弾けてしまい、知紗を疎ましく思う様になる一方、
最終的には津田との性愛に走ってしまう。そして、またしてもやってくる「ぼぎわん」。
そしてお節介な津田・真琴ペアの除霊も虚しく香奈もまた悲惨な最期を遂げる。


秀樹も人間性は最悪だったけど、香奈も大概酷い。
中身からっぽだし、コミュニケーション能力無いし、その癖被害者意識強めだし。

一緒に働きたくないタイプ。
こういう意思疎通が難しい人間って変な所で切れたりするしね。
私個人としても嫌いなタイプ。


そんな香奈が秀樹と死別後、外野から見ると「キラキラ」していた生活が破綻し、
そして壊れていく様は悲惨を通り越して一種の喜劇みたいな感じ。

面白い程に奈落に落ちるし、しっかりと「ぼぎわん」は止めを刺しに来る。


ただし生々しい分、こちらは見るのがしんどかった。




そして最終章。野崎視点。
田原夫妻は死に、真琴を「ぼぎわん」に倒され病院送りに。

それを知った琴子が遂に日本各地から霊媒師を招集、
逢坂も復活し、ついに大除霊バトルが始まる。


そうそうこれがTwitterでも時々話題になるシーン。

何でも本物の神主さんも参加しているらしい。
印象的で強キャラ感が強いモブキャラが多数登場し、場面を盛り上げる。

日本各地から集めた精鋭も半数が来る途中に「ほぎわん」の攻撃に遭い脱落する中で、
新幹線で東京へと向かったご老人の神主集団の言ったセリフ。
「誰か一人でも辿り着いたら御の字やろ。」を生で見れて良かった。

これを見る為だけにレンタルしたと言っても過言ではないのだから。

それに、カプセルホテルから神主の恰好をして出発するシーンも中々にいい。

また様々な宗教がそれぞれの祈りを捧げるシーンは必見。
宗教以外にも謎の装置を使うグループもあって、画面はとにかく混沌としている。
これは伝説になりえるシーン。カルト映画的人気を博したのも納得だ。


最初こそクズっぽいシーンもあった野崎も、
今までのパートで描かれた情の深さに最初の印象からは変わっている。
そして明かされる野崎の過去と業。過去と現在の苦しみに耐えながら、
真琴を支える為に足掻く。



ただし、絵面的に面白い反面この結末だけは嫌い。

散々悪趣味で不快感な描写を見せられてきて、
最後の最後でよくわからないままハッピーエンドぽく終わった時、ただただ唖然となった。

何かもう色々と収集がつかないから、無難に終わらせたかのような急なラスト。

え、なにこれ。なにこれ。って率直に思った。


知紗を救うために結果として除霊を妨害し、滅茶苦茶にした野崎と真琴は。
「ほぎわん」との決着は。知紗の運命は。

全てが闇の中。映画は終わる。



私は一体何を見ていたのか。

このラストに興味深い考察をYouTubeで投稿している人もいて興味深い反面、
私自身この映画に考察する程を情熱を抱けなかった。




私はこの映画は否定的。
グロいだけで怖くはないけど、全体的にキャッチーな感じで、
普段なら見たくないような悪路的な場面もさらりと見れてしまう。

印象的な場面も沢山。でも唐突なラストだけはダメやった。


ただし、これは私の作品への趣味が現れた感想だと思う。


そして私には合わなかったけど、刺さる人にはとても刺さる映画だと確信している。
それぐらい作品のカロリーは高い。ジャンキーな映画だ。

その人気は健在で、2023年に逢坂セツ子Tシャツが販売されている。

「来る」で柴田理恵が演じた霊媒師・逢坂セツ子がTシャツに


一生忘れないぐらいインパクトのある名シーンの数々は、ぜひ見てみてほしいと思います。



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