独断と偏見とちょっとしたスパイス 57
唐 東ユーラシアの大帝国 森部豊
─大唐帝国の興亡史─
公式サイトより引用
東アジアの先進地域。中華。
今私がこのブログで書いている日本語の漢字を始め、
日本文化に多大な影響を与えた中華の先進性には学ぶ事が多い。
日本では卑弥呼が邪馬台国を治めていた頃。
中華では『三国志』で有名な三国時代であり、あの大きな中華の覇権をかけて争っていた。
中国史の持つこのスケール感。ダイナミックな歴史の流れが、日本史には無いものがある。
圧倒的な人口。マンパワーが文化や技術の進歩を早めるのか。
国々の発展の進捗の違いには一体何が影響するのだろうか。
歴史学における大きな謎の一つだろう。
東アジアの国際情勢に与える中華の影響力も大きさは過去も、
そして現在も変わらない。この大陸の歴史について私達はもっと学ぶ必要がある。
日本のより世界史的視点で、言い換えるならばよりマクロ的視点で見る為に。
やはり中華の歴史の動きがもたらした影響は、日本史から消す事はできないのだから。
さて今回取り上げるのは『唐 東ユーラシアの大帝国』は中公新書より発売された。
唐というと日本では飛鳥時代。
日本には王朝があり、厩戸皇子(聖徳太子)が制度を改め、
大化の改新によって中華から学んだ律令制を日本も導入し、法による統治が始まった。
日本だとやっぱり「遣唐使」というワードが有名で、
この覚えやすい五感は印象に残っている人も多いと思う。
希代の英雄・太宗李世民から始まったこの王朝は、
始めは遠く中央アジアすらも支配する広大な大帝国だった。
しかし皇后、後の武則天による皇位の簒奪(武周革命)や、
安史の乱による大規模な内戦を経験するたびに国は縮小していき、
やがて帝国はその力を失い大規模な民衆大乱・黄巣の乱をきっかけに滅亡へと向かう。
290年あまり。日本の江戸幕府よりも長く中華を治めていた国だ。
そんな大帝国唐の通史をまとめた歴史書になる。
唐の歴史は権力闘争と民族間の対立の歴史。
皇帝一族間での争い。宦官と皇帝の対立。唐からの独立を図る遊牧民。
そして唐に対して立ち上がる民衆。
「○○の治」と呼ばれる安定した時代は全体的に少なく、
世代交代がある度に様々な混乱が始まる。
今の価値観で言えば、王権政治の限界を見せられている様に思った。
民主主義が格段に優れているとは思わないが、この惨状が見ていて辛いものがある。
また王朝内では初期こそ遊牧民族の風潮が残っていた唐が、
時代が下るにつれてその風潮が消えてしまう。
そこに多民族国家の難しさを感じた。
隋末では希代の英雄・李世民の活躍により短期間で中国の統一が成されたが、
唐の滅亡後は五代十国時代と呼ばれる長い戦乱の時代がやってくる。
多民族国家であり、様々な信仰が交易を通して伝わっていた唐。
多数の文化が中華へと混ざり合い、独特な個性を持った国。
東アジアの先進地域。ユーラシアの大帝国のその最期は、あまりにも無惨だった。
中公新書ってやっぱり凄いなって思いました。
ここまで唐の歴史を通史的にまとめた書籍が、比較的安価で販売されているのだから。
一度読んだだけでは全てを理解し吸収するのは多分無理だと思う。
無論文章が読みにくかったり、難解だったりするわけではない。
単純に情報量が素晴らしい。
そして、江戸時代より長い歴史の本を、索引のページも併せて379ページ。
あまりにも短いページ数でそれを纏めたのだからそうなる。
文章自体は端的でわかりやすく、シンプルにまとめられていて読みやすい。
読みやすいのだけど、あまりにも情報量が多すぎて暗記しきれない。
唐の歴史は多少かじった程度。あっという間に情報過多でパンクしてしまう。
また読まないといけない。
一方で興味深い提示が文章中に現れる。
それは安史の乱を取り扱ったページより引用する。
「安史の乱」という事件を「反乱」とよぶのは、勝者である唐側の見方であるので、勝利者側の価値観を共有しないように、本書では「 」でくくることにする。では、安禄山の立場からすれば、この事件は何だったのだろうか。私は、この事件の本質の一つを、安禄山とそのまわりにあつまったさまざまな集団が唐からの独立をめざしたものと見ている。
唐 東ユーラシアの大帝国 森部豊 193、194ページより引用
これは意外だと思った。
私は通説どおり安禄山と宰相楊国忠の対立が結果として反乱に向かったと考えていた。
個人的な私怨。それが乱の原因と。
「乱」という響きが、スケールを小さくとらえてしまったのだろう。
中華王朝と聞くとやはり漢民族ばかりを考えてしまいがちだが、
一方で唐では多くの民族が参加して生まれた多民族国家であった所を抜け落ちていた。
多民族国家・唐の中での安禄山。
という新しい視点が得られたのはこの本を読んで有意義だった視点だと思う。
また序章の「時代区分論争の始末」というページで、
現代の歴史区分。例えば各国でバラバラな古代や中世、近世、と言った区分によって、
国の発展の差を差別的に理解する事を防止する為に、
新しい歴史区分が考えられている現状の話もまた興味深いものがあった。
李世民が起こした遊牧民族を大勢参加した多民族国家・唐。
しかし、度重なる政治の混乱や異民族の台頭を期に徐々に衰退。
そして最後は民衆の反乱に起因する内戦によって滅亡へと至った。
この流れ。この最後には読んでいて虚しさを覚えた。
大変情報量の多く、一見すると初心者向けでは無さそうにも聞こえるが、
むしろ唐の歴史をよく知らないけど、改めて学びたいという人にこの本を勧めたい。
唐の興亡史がよくまとめられ、そして最後には無数の参考文献リスト。
しかも一部には文献案内として筆者のコメント付きでまとめられている。
これもまた凄い。しかもちゃんと章ごとに使った文献リスト分けられているから、
部分的に学びたい。この出来事。この人物。この現象について知りたいと思ったら、
またそこから新しい知識を得る事が出来る。
まさにうってつけの本。
大唐帝国の興亡史。
ぜひ、手に取ってそのダイナミックな歴史の流れを学んでみませんか。
公式サイト
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