卒業 Tell the World I Love You
─どん詰まりな3人は微かな光を求めた─
映画.comより引用
だから私は熊本のミニシアター・Denkikanへと向かった。
今から見に行ける映画はこの3つ。
- 過去の陰惨な事件を取り扱ったノンフィクション。
- 現在の価値観でアップデートされた歴史上の人物の伝記。
- タイでヒットした高校生たちの青春物。
まず気分的にノンフィクションはパス。
精神的なエネルギーを使いたい気分じゃない。
伝記物の映画はポスターはロックな感じだけどそれが逆に好きにはなれなかった。パス。
消去法でタイの映画を見る事にした。
正直今までタイの映画なんて見た事は無い。
あらすじを読めば、
高校生ぐらいのティーンがわりとどん底な立ち位置で青春する感じ。
まあ、これなら良いかって見に行ったのが動機。
……私は知らなかった。
これがBL映画だった事に。
人生初めてBL映画を見る事になるとは思わなかった。
さて、今回取り上げるのはタイ発で、本国ではヒット作と言われる映画。
『卒業 Tell the World I Love You』
タイと言えばニューハーフのイメージがあるだけに、
BL映画がヒットしているのは、ある意味タイは進んでいる。凄い。
でも、主人公をオカマと罵り、クラスメイトが主人公をいじめるシーンがあって、タイでもそういういじめがある事に知って辛い。
とは言えがっつり性描写がある感じでは無くて、思っている以上に繊細なお話。
男臭さが脱臭されていて、キラキラした感じ。
まるでアニメのようなある種の理想的な、そんな綺麗さがある。
登場人物はわりと悲惨な境遇ながらも、
わずかな希望を得る為に奮闘するティーンたちの青春。
熱い物語と、真っすぐな想い。そして、三角関係。
始めてみる世界に驚愕しながらも、楽しく見れました。
あらすじ
生き別れた母親を探すため、奨学金で中国への留学を目指す優等生のケンは、同じ高校の同級生:タイの家で居候をしている。留学に向けた試験も迫るある夜、ケンは集団から袋叩きにされている青年:ボンを助ける。薬の密売組織から足を洗おうとしていたボンは、紛失した薬物の所在の責任を追及され、組織から制裁を加えられていたのだった。ボンを助けたことによって、その仲間と見なされたケンも組織から追われる身となり、タイに迷惑はかけられないと、ケンはタイの家を出て、ボンと一緒に暮らすことになる。が、ボンの家に向かう途中で、再び組織から襲われたケンは大ケガを負う。本来なら出会うはずがなかった正反対のケンとボン、そしてタイ。彼らを待ち受ける未来はー。
公式サイトより引用
主な登場人物は4人。
- ケン
母親とは生き別れ、親友のタイの家に2年も居候している。
夢は奨学金を得る為の試験に合格して、中国へと留学し母と再会する事。
その恵まれたルックスが原因で校内で陰惨ないじめを受けていて、PTSDを抱えている。
また自身の女性的なコンプレックスを抱いていて、その点を触れられると激怒する。
すぐに手が出るタイプだが、戦闘力は低いからいつもぼこぼこにされる。空手が出来ないカミーユみたいな感じがする。
- タイ
両親はいないので、定食屋を営んでいる兄と暮らしている。
居候のケンを煙たがる兄からよく守っている。
学校でもいじめっ子たちかたケンを守っている。タフガイ。
その思いは最早親友の枠を超えてしまいそうなぐらい、ケンに尽くす。
- ボン
そんな状況で麻薬組織から抜けようとした為に、
案の定制裁としてリンチされていた所をケンに救われる。
結果ケンもボンの仲間と見なされ組織から狙われる原因となった。
諸事情によってタイの家を追い出されたケンは、ボンの祖母の家に身を隠す事になる。
高校の優等生とギャング。決して混ざり合う事の無かった2人は、
秘密の生活を通して、関係がより深まっていく。
コメディリリーフ担当。アイロンで肉を焼く。
- ニック
ボンが麻薬を数キロ紛失したまま組織を抜けようとした為に、ボンに制裁を加えた。
しかし、ボンの案件に時間をかけすぎた為に組織のボスに激しく折檻される。
またケンとボンが乗るバイクをミニクーパーで追いかけるチェースシーンでは、
銃撃戦となりケンにピストルを当てる事には成功したが、自身もピストルに撃たれる。
その為ボスと同じぐらい、ケンやボンに恨みを抱いている。
- クラスメイトの2人組(おまけ)
男の子(名前はジョニーだったかな?うろ覚え。)と、セリフがほとんどない女の子。
タイの兄の店がニック達の襲撃を受けた後にケンやタイの傷口の手当をしたり、
高校パートで背景ぐらいの役割で登場。正直物語にもうちょい絡んで欲しかった。
わりと好き。女の子かわいい。
最初に言っておくと、あまり勧められる映画では無い。
そもそも題材的に万人受けする訳でもないし、そもそも色々雑過ぎる。
画質は素人目で見ても粗いと感じだし、終盤の展開が雑過ぎて謎だった所もある。
ボンが麻薬組織から恨まれるきっかけとなった麻薬数キロの紛失。
あれは結局なんだったのか。映画を見ただけではよくわからないまま終わったし。
個人的に一番残念だったのが、
タイが中盤出番が少なくて、タイの印象がわりと薄い事。
だからケンとタイの結末に唐突に思えた事。
正直ケンとタイのあの結末自体は良かった。
タイは自分を犠牲にする事で、ケンを救おうした自己犠牲エンド。
そして、拘置所で再会する事になった2人が最後に交わした綺麗な会話。
本来ならば泣ける凄くいいシーン。
でも、そこに行くまでの流れが唐突過ぎたから、
あの結末の美しさ、切なさよりも、
ポッと出のボンに取られた挙句自身は全てを失ったタイ可哀そう。の方が強かった。
やっぱりその話の過程を描く事って大事だなって思った。
過程が弱いから、「タイ、お前はこれで本当に良かったのか?」って問いたくなる。
文句はいっぱいある。
でも、最後まで結構楽しく見れたのよね。この映画。
その理由は少年漫画の様なライブ感だと思う。
展開が本当に読めなくて、どういう結末になるのか予想ができなかった。
ケンにしろ。タイにしろ。そしてボンにしろ。
3人とも自分の置かれている状況は最悪で、最悪のバットエンドに終わるかもしれない。
この「最悪のバットエンドで終わるかもしれない。」という点がミソで、
中盤からは冷や冷やしながら見ていた。この一種のスリル感が魅力だと思う。
途中コメディリリーフな場面や温かい場面が挟まれるから余計、
ジェットコースターみたいに奈落に落ちる前の準備期間みたいな感じがして怖かった。
また3人とも戦闘力は低め。基本的に麻薬組織と戦ったボコボコにされる。
このパワーバランスは終盤まで一切変わる事は無い。
そんな状況下でも後先考えないケンの暴走ぶりと、
作中最強の敵・ニックの存在が、物語をいい意味で引っかき回していた。
ケンはすぐに頭より体が動くタイプで、それがいい結果に繋がる事が少ない。
基本的にトラブルメーカーの気質があり、結果他人を巻き込んでしまう悪癖がある。
結果、タイの兄の店は麻薬組織に滅茶苦茶にされるし、
周りも麻薬組織の争いに巻き込まれてしまう。
このエキセントリックな側面が、見ていて好きだった。
好感が持てる主人公ではないけれど、
良くも悪くも中々いないよね。こういう主人公。
作中最強の男・敵役のニック。
彼が物語をよりスリリングにした功労者でサディスト。
彼の存在は大きい。ボンの件でボスにかなり厳しく折檻されながらも、
一方で裏ではボスから組織を奪おうと暗躍する野心家で、部下を使った集団戦が得意。
自身も傷を負いながらも、幾度も無く主人公陣営をボコボコにしている。
終盤。雑な作戦でボンを呼び出してボコボコにして、
ボンを単身救出に来たケンをまたボコボコにして、両者KOにする。
ケンとボンをKOしてから始まるニックのサディスティックな暴力シーンは、
色々思う事はあるけど、私はこの映画で一番好きな場面です。
恋愛に関する挿入歌が入り、場面はよりシュールさを引き出している感は否めないけど。
やたら背景に映る巨大な大仏。雑然としたタイの街並みも結構好き。
一度は歩いてみたい。
例えばYouTubeの同時視聴とかニコニコ動画とかで
チャット欄やコメント欄に書き込みしながらわいわい見たい。
たぶんコメント欄は盛り上がるし、
何だかんだでみんな最後まで見てしまうぐらいに面白い映画。
個人的にはカルト映画の域にあると感じる。
最後まで観客を引っ張る力を持った作品だと思う。
真剣に作られた作品だからこそのシュールさがあって、
繊細なBL描写がとっつきやすかったです。
またメインキャストはみなイケメンでした。
清潔感があって、日本でも人気取れそうなイケメンでしたね。
何か不思議と人と話したくなるような、そんな映画だったと思います。
公式サイト
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