DINER ダイナー 平山夢明
─地獄の真っただ中に佇むダイナーは血に染まる─
公式サイトより引用
このブログを読んでいるあなたに質問します。
高校生の時に読んでみたかった小説はありましたか。
私はありました。
一つは有川浩先生の作品。具体的なタイトルはありません。
ゼロ年代後半から10年代前半にかけて有川浩先生の活躍ぶりは、ここに書くまでもありません。『塩の街』や代表作の『図書館戦争シリーズ』。『キケン』にドラマ化もされた『フリータ、家を買う。」まで。キャッチーで話題性のある作品を多く書かれていました。結局読む機会に恵まれず、未だに1作も読んでいないという体たらく。でもいつかはちゃんと読んでみたいと思っています。有川浩先生に限らずこういうブログを運営する以上は、古典に話題作、流行作、名作、傑作、駄作等々様々な内容を取り上げたいと思っているので、いつか必ず取り上げたいと思っています。思っています……。
2つ目は平山夢明先生の『ダイナー』です。
高校生の頃に地元の本屋さんに言った時あった本。
ちょうどポプラ文庫で販売されていて、あの特徴的なハンバーガーの表紙が特徴的でした。
ですが、その頃は一般文芸とラノベの境目にあるメディアワークス文庫の本をとにかく読んでいました。だから普段の倍の厚さの本に尻込みしてしまいました。400ページ越えの大作を読む程の力や労力、覚悟があの頃の自分にはありませんでしたから。
近年は実写映画に漫画化、続編と話題の尽きない本作。しかも登場人物や話も各メディアで違っているようで、もはや「ダイナーユニバース」と言ってもいい位に世界観が広がっています。逆に読むにはいい時だったかもしれません。
さて、今回はそんな思い出深い『ダイナー』を取り上げたいと思います。
著者は平山夢明先生。
初読みですが平山先生と聞くとこのミス1位に選ばれた、
『独白するユニバーサル横メルカトル』もまた気になっている。
このタイトルが中々特徴的で忘れないよね。たまたま手に取った「このミス」で紹介されてて、この特徴的なタイトルもあって今でも忘れずにいる。もう20年近く前の作品だけど、これもまた読んでみたい。ちなみに『ダイナー』の続編の連載が始まっているらしく、本家『ダイナー』もまた「ダイナーユニバース」を広げています。
あらすじ。
冴えないOLだった主人公・オオバカナコは退屈な日常に飽きていた。
そんなふとした時にリゾートホテルの広告を見て、そこに行きたいと思ったカナコはその場の思いつきで闇バイトの求人に応募してしまう。仕事は強盗犯の乗る逃走車のドライバー。しかし強盗は失敗した挙句、被害者側の反社に攫われて酷い拷問を受け、その後カナコは人身売買の商品として売りに出された。しかし中々買い手は見つからず、山で始末されそうになったその時やっと買い手が見つかった。結局カナコはダイナー「キャンティーン」の主・ボンベロと名乗る男の元で、殺し屋専門の会員制ダイナーのウェイトレスの仕事をする事になる。しかし、客はくせ者揃いで、軽い気持ちで人を傷つけ殺そうしてくる。そんな異常な空間でカナコは果たして生き残る事が出来るのか。また主・ボンベロとの命を懸けた駆け引きの行方は。
ちょっとだけ後悔しています。
多分この小説を高校生の頃に読んでいたらドハマりしていたと思うから。さっきは「読むにはいい時だったかもしれません。」と書きましたが前言撤回です。物語に対する感受性が高い高校生の時期。ショッキングな描写にいちいち衝撃を受けていたあの頃にこの小説を読んでいたら「あの頃大好きだった小説」と思い出補正も入って、すごく熱心なファンになっていたと思う。ジャンプの漫画とかでも作品を読むタイミングで感じ方や感想も変わってしまいますが、高校生の頃と今を比較しながら読んだりして見たかったですね。
もちろん大人になった今、私は読んだ訳ですがとっても面白かったです。こういう生々しいバイオレンスを売りにしている小説は新堂冬樹先生の『蟲毒VS溝鼠』や北方謙三先生の『煤煙』以来数年以上全くと言っていいぐらい読んでいなくて、すごく新鮮味を感じながら読む事が出来ました。
一方でバイオレンスを売りにしている作品って小説に限らずその背景にある人の闇や不快さを強調、または誇張された描かれ方がされる事も多くて読んでいて「しんどさ」を感じる事もあるのですが、「ダイナー」はある意味でそういう「しんどさ」を感じる事もなく独特な世界観と最後までノンストップな疾走感がたまらないエンターテイメント作品になっています。そもそも日本が舞台なのに定食屋でもレストランでも喫茶店でも無くダイナー(北アメリカにある定食屋)だし、出てくる殺し屋たちも現実の反グレやヤクザみたいに日本名では無くマフィアやギャングで使われてそうなニックネームで呼ばれている(スキンとかキッドとか)キャラクターが多いです。こういう日本が舞台なのに日本らしからぬ感じが、一般人がまず来る事も出来ない殺し屋限定ダイナーという舞台、という世界観に説得力がむしろ増された様に思います。だって日本が舞台だといくら反社でもメキシコの麻薬カルテル程の暴力性って中々想像できないけど、それっぽい名前のマフィアだと思うとガンアクションや残虐性にも納得してしまうでしょ。ある意味これって中々の創作テクニックだと思う。
ここは凄く協調して書いておきたいポイントとして、
主人公のオオバカナコとボンベロや殺し屋たちとの交流もまた凄く好きです。
オオバカナコってあらすじを読む以上に腹が座っていて、結構序盤からボンベロ直属のボスの酒を隠した上でボンベロと交渉したり、異常な客相手に果敢に接客したりと酷い目に遭いながらも強く成長していきます。表の世界で生きてきたカナコにも暗い背景こそあるものの、タフで何より壊れていないからこそ、殺し屋たちとの対比が残酷なまでに鮮明です。殺し屋たちはみな想像もできないような劣悪な環境下で幼少期を過ごしていたバックボーンにより、人格が破綻し、人として壊れてしまっている。
一度壊れてしまった心は元に戻る事は無い。というにはよく聞く話で、『シグルイ』という漫画でも「心という器は ひとたび ひとたびひびが入れば二度とは 二度とは」という名言があります。実際その通りで、SNSを見れば壊れてしまった人々とその所作はすぐに観測できると思います。壊れてしまった殺し屋達の最後の居場所・ダイナー・キャンティーンという舞台がどういう所なのか。そして光と影の様なはっきりとしたコントラスト。人生の明暗を分けた凄惨な背景。底が見えない谷底を覗き込むような、そんな人間ドラマもまた良いなって思います。
またカナコと殺し屋達との交流の中である種の「人間賛歌」的な側面も感じます。それが物語の持つ熱さにも繋がりました。カナコという異物が壊れてしまった殺し屋達に人間性を思い出させる。そもそも交流すら出来ない程に破綻してしまっている殺し屋もいるだけに、スキンやキッド、そして主ボンベロとの会話シーンはどこか印象的でドラマチックでした。
キレッキレなバトルシーンや実際に食べてみたくなるような料理の数々。
バトルだとキッドVSカナコ・菊千代(ボンベロの飼うブルドック)戦が好き。
読めば読む程漫画映えする作品だと思う。漫画化して良かった。今度読んでみたい。
面白かった。すごく面白かった。
考えるにバイオレンスって凄く難しいジャンアルだと思う。だってバランス調整を上手く取らないとケレン味が強くなるし、シリアスになればなるほど娯楽的面白さがなくなってしまう。この絶妙なバランスがとても良かった。ちなみに綺麗に終わっているので、ここから続編。というのがいまいちピーンと来ていない。どういう感じで話を進めるのだろう。続編はその辺が気になります。ちなみに漫画版と言うと本編から独立したオリジナルストーリーになっている。意外だけど、原作通りにすると恐らく上下巻。引き延ばしても3,4巻が関の山ぐらいのボリュームだと思うので妥当です。
広がり続けている「ダイナーユニバース」。あなたも読んでみてはいかがですか。
公式サイト
単行本版
文庫版
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