独断と偏見とちょっとしたスパイス 76
あと十五秒で死ぬ 榊林銘
─15秒で全てが終わる「15秒」ギミックミステリー集─
まだテレビが学校の話題の一つだった平成も中頃の話。
フジテレビの土曜日の11時から放送されていたドラマが話題を集めていた。フジテレビと言ったら月曜9時のドラマ・通称月9が有名だけど、またそれらとは違って挑戦的な物語を多くやっていた。漫画原作が多く、有名どころだと学校のいじめを扱った『ライフ』や『ライアーゲーム』。個人的に好きだったのは『33分探偵』、そして『ロスタイム:ライフ』がある。『ロスタイム:ライフ』は一話完結型のドラマで、主人公が不慮の事故等で死ぬ直前、サッカーの審判団が乱入。それぞれの主人公は人生の無駄な時間「ロスタイム」の間だけ蘇り、その間に人生の清算をしていく物語だ。今回とりあげる作品も時間ギミック物とあって、読みながら『ロスタイム:ライフ』を思い出した。あの頃ってテレビの録画とかも面倒くさくて、結局全話見てないのよね。いずれまた見たい。
今回取り上げる作品は榊林銘の『あと十五秒で死ぬ』。
出版元は東京創元社、レーベルはミステリーフロンティアより2021年に出版された。作者の榊林銘さんは本作に収録されている「十五秒」が第12回ミステリーズ!新人賞佳作を受賞し、この短編集でデビューを果たした。
このミステリー賞について自分はよく知らなかったのだけど、はっきり言って話のクオリティがすごく高いって思った。「新人賞」の作品ってぶっちゃけ当たりはずれがかなり大きくて「何でこの作品が受賞したの。」って疑問を感じる作品も正直ある。そんな中でこんな面白い作品が応募されて、受賞されるのだから賞レースがちゃんと機能している表れだろう。
ちなみに「十五秒」はフジテレビのドラマ「世にも奇妙な物語」で実写化もされている。pixivアカウントがあり、漫画やイラスト等も投稿されている多芸な方。またミステリーフロンティアの作品は岡崎琢磨さんの『夏を取り戻す』に続いて2作目。基本的に文庫本ばかりを読んていた手前、この辺のレーベルにはあまり手を伸ばしてきて来なかったら、これからチェックしたいって思った。
この本のキーワードは「15秒」。時間系ギミックのミステリーで、どの短編も「15秒」が大きくかかわってくる。基本的には物語上の時間制限として「15秒」となっている事が多いが、一部よそ見した15秒の間に急展開を迎えていたりと言った「15秒」の使われ方もしている。そんな「15秒」短編が4つ収録された短編集だ。
まずは受賞作の「十五秒」。主人公は薬剤師で、薬局にいたその時、逆恨みした患者の娘が猟師から奪った散弾銃で襲撃、まさに撃たれるその時時間が止まり、目の前には死神が現れる。死神が言うには、予定よりも15秒早く迎えに来てしまったのでだか、そのお詫びにその15秒を自由に使える時間として与えるとの事。その15秒間だったら自由に時間を止める事が出来、止めている間に次の行動をどうするのか考える猶予をくれた。さて、主人公は以下にして犯人を告発し、反撃するのか。
ミステリーのギミックやキャラクターの造形が若干舞台装置的に感じてしまったものの、余命15秒というテレビCM1本分という限りなく短い時間で、犯人に最後の反撃をする。という展開は面白かった。この15秒は、さすがに『ロスタイム:ライフ』よりも短い。秒単位で細かな行動を吟味して、実行に移す。そして、また時間を止めて、次の行動を考え、行動する。自分の目的を達成する為これってもはやRTAみたいだよね。主人公が15秒間の間に怒り、悲しみ、葛藤する様はドラマだった。
作者のみが知る登場人物達の裏設定とかが結構濃いだろうなって思ったのが「このあと衝撃の結末が」。とある家族の夜の一幕、リビングにあるテレビでは夜放送されている視聴者参加型ドラマの最終回が流れている。ドラマはもはやクライマックス。探偵とヒロインが語り合っている。推理役の弟がテレビから目を離したその時、ドラマでは急展開。ヒロインが死にかけていた。ドラマファンの姉は、弟に問題を出した。何故ヒロインは死に事になったのか。2人はドラマを振り返りながら、物語を整理していく事になる。
実は物語は姉弟だけでは完結しない。その裏で脚本家のある思惑があって、脚本家サイド視点からも描かれている本作。こういう参加型ドラマって基本無いからさ。ミステリーとしてずるいなって思う瞬間はあったけど、でも筋は通っている。加減って難しいね。好きか嫌いかで聞かれるとわりと好き。読んでいて面白かった。
個人的にいまいちだったのが「不眠症」。お屋敷に住む少女の主人公は、いつも尊敬している母と2人暮らし。そんなある日の夜。母と2人車でドライブする夢を見る。夢の中で母は主人公に語り掛けるが、必ず15秒後には交通事故にあってしまう。温かい想いや意志。そのすべてが無意味な徒労で終わったこの後味の悪い結末自体は好きなんだけど、それまでの過程の描き方が抽象的過ぎて結末の余韻がいまいち。物語の時代設定も分からず混乱した。やりたい事は理解できるのだけど、結果ファンタジー小説みたいになってしまった。ただし、もう一回所々を見返すとメタファーなのかなって思う部分もある。するめ的な面白さがあるかもしれない。
「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」はお勧め。
収録されている4篇の中でも最も長く、最も突拍子も無く、そして最も先の読めない展開が熱かった。個人的に一番面白くて、とにかくお勧めしたい。島民は首が取れても15秒だけは死なないという特殊体質の島を舞台に起こってしまった殺人事件。そして、その殺人事件の裏には、多くの登場人物たちの思惑が交錯する。事件に巻き込まれてしまい、体を奪われた高校生の主人公は偶々近くにいた友人の体を使い、首を15秒ごとに入れ替える事でどうにか命を繋いでいた。主人公は自分のこの状況に追いやった犯人に復讐する為に山で潜伏しながら情報を集めていく。
首が取れでも15秒だけ生き残れる。という一見滅茶苦茶な設定なんだけど、これが上手く物語に活かされていて、あまり違和感が無い。そして、様々な伏線が一挙に回収される様は見事。物語としても面白く、ギミックも生かされていた。そしてこのオチ。想像するだけで地獄絵図なんだけど大好きだった。この妖怪みたいな人々が隠されているこの物語の世界観で、もう1篇。物語が見たい。
「15秒」というキーワードを元に、ユニークな設定を織り交ぜた短編集。
15秒と意識すれば長く、無意識でいればあっという間な、そんな僅かな時間にそれぞれの物語は大きな変化を迎える事になる。そんな「15秒」ギミックが上手く作品内に取り上げられていて、何より物語として面白い作品が多くって最後まで飽きずに楽しんで読む事ができました。ただし個人的には賞を受賞した「十五秒」よりも「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」の方が好き。ミステリーというジャンルって思っている以上に幅が広くて、他のジャンルとも混ざり合っているから、本当に自由なジャンルだなって思います。こういうアイデア小説が表に現れる土壌がある限り、まだまだミステリーというジャンルは盛り上がるだろうね。ミステリーはたまに読むぐらいのミーハーだけど、違うミステリーも読みたいって思った。一風変わった設定や世界観。良かった是非読んでみてください。
公式サイト
あと十五秒で死ぬ (ミステリフロンティア版)
あと十五秒で死ぬ (創元推理文庫M版)
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