ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ ─老いたガンマン達の愛憎劇─

2024年9月27日金曜日

サンローランプロダクション ハーク ペドロ・アルモドバル 映画 海外映画

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独断と偏見とちょっとしたスパイス 75

ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ 
─老いたガンマン達の愛憎劇─








やって来ました、久々の電気館。

電気館は熊本のミニシアター系の映画館で、公開日は若干都市部よりは遅いけど、シネコン系の映画館では決して見れない映画を沢山公開している映画館です。封切りされる映画も様々で、ホラー映画や過去作品のリマスター版、上映されている映画館が少ない話題作。娯楽映画に左派的思想家が作った映画まで。ここに来ると映画という世界はとても裾野が広い世界なんだと再確認させられます。雰囲気も独特で、熊本でもコアな人間が多い場所。シネコンと違ったあの雰囲気は正直ちょっと入りにくさを感じる人がいてもおかしくは無いと思うけど、気になった映画が見つかったら是非とも一度は入館してみるのをお勧めしています。ここのブログで取り上げている映画の内、聞いた事の無い様な比較的マイナーな作品は基本的にここで見た作品を取り上げています。もし職場が熊本市内で17時ぐらいで帰れるのならば、通うように見に行っていたと思う。そんな映画館です。

ただ最近はわりと足が遠のいていた。スクリーンの数も少ない映画館。上映される作品の公開期間はとても短く、気が付くと終わってしまう事もしばしば。しょうがないとは言え、これだけ配信サイトが活用されている今だと、「もう配信で良いか。」って思ったり。昔々ガビガビ画質の小さなガラケーの画面でニコニコモバイルのシュタゲ見ていた少年期。あれがあるから、画面の大きさとか音響とかのこだわりはあんまり無い。

でもちょうど時間が出来て暇だったから、久々に電気館へ。
とりあえず前情報無しで、気に入ったポスターを見て、それから公式サイトのあらすじを見て、何となくこれを見る事にした。一番くじみたいな選択。
そして驚くべき世界を目撃する。


この映画はゲイの愛憎劇を描いた映画だったからだ。



さて今回取り上げるのは『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』。
制作はスペインとフランスの共同制作。日本では2024年に公開された。上映時間は経ったの30分前後というショートムービーでもあります。

特出している点としては、フランスのラグジュアリーブランド「サンローラン」が子会社「サンローランプロダクション」を設立して、映画製作に参入して最初に生まれた映画という事だ。ルッキズムに対する批判もネットでは度々される中で、ラグジュアリーブランドがこういった大胆な選択をした事に驚きを隠せない。


美術手帳
サンローランが「サンローラン プロダクション」設立で映画制作に参入。
ラグジュアリーブランドとしては初



ゲイのガンマンの愛憎劇という内容にはとにかく度肝を抜かれた。

もちろんゲイの人を否定するわけでは無い。実際に知り合い内でもゲイの人は居る訳だし。ただやっぱりそういうコミュニティに参加していないと基本的に混ざり合う事は無い訳で、だからゲイの濡れ場にはちょっと自分には刺激が強かった。戸惑いというか、強烈なインパクトを感じてしまった。ジェイクとシルバのタブル主人公のこの映画。それぞれを演じるイーサン・ホークとペドロ・パスカル共にかっこいいイケオジだから、すごく絵になる。官能的で凄い。フラッシュバックしそうな位の強烈さを放っている。


舞台はアメリカ。
保安官がいて、カーボーイがいて、ガンマンもいる。西部劇の世界。

そこに牧場を営むシルバは25年ぶりに旧友で保安官になったジェイクのいる町へと訪れる。過去には性的関係を結ぶ程に関係を深化させていたものの、牧場を一緒に始めようと提案したシルバの案をジェイクが蹴る形で袂を分かつ事になった。しかし、対立していた訳でも無かった事から、2人はこの再会を喜んだ。次の日、シルバがジェイクを訪ねた本当の理由を知り、2人の空気は重くなる。シルバの息子がジェイクの死んだ弟の嫁を殺害していて、ジェイクは捜査の結果ジェイクの息子が犯人である事を突き止めていた。息子をかばいたいシルバと、死んだ弟の家族を守る事が出来ななった伏し目から犯人逮捕に力を入れていたジェイク。2人は決裂し、戦う事になってしまった。


冒頭の街角で綺麗な男が歌うシーンからも分かる画の美しさと、敢えて狙ってやっているとしか思えないレトロな雰囲気。とても30分とは思えない程の情報量と内容の濃さ。昨今の脚本家は倍速視聴させない為に情報量を濃くする。みたいな話を聞いたことがある。まさにそれを地で行く。ゲイたちの愛憎劇というインパクト。刺さる人には刺さる。とてもコアに仕上がりになった映画だと思う。実際近くに座っていた人はカップルで2回見に来ていた様でとても驚いた。


ハードボイルドなジェイクと愛憎渦巻くシルバの関係性。特にシルバの葛藤の根深さ。今っぽい言い方をするならば激重感情が見え隠れしていて、すごくつらい。わりとクールな印象で家族と友達で線引きがちゃんとしているタイプのジェイクと、本当は25年前にジェイクと一緒に牧場運営を通して「家族」になりたかったのだと見ていて薄々感じてしまう。そんな男・シルバ。色々と社会で生きる上で妥協に妥協を重ねた結果、出来損ないで人殺しの息子とジェイクとの板挟みになっている。しかも息子の事も愛していたからこそ、難しい立場に自分の身を置く結果になってしまった。

そして最終的には、シルバの選択が最終的に結末を決める事になった。それはとても優柔不断で、娯楽作品だったらブーイングが出てもおかしくないような、そんな選択であった一方で、ある意味人間らしい選択でもあったと思う。ジェイクに自分の本心をシルバは伝える事が出来た訳だし。ただ、シルバとジェイクの関係性はさらにドロドロに、さらに悲惨な結末すらも予見させるもので、映画の「その後」はちょっと想像ができない。そんなビターなエンディングだった。ジェイクとシルバ。この2人の関係性は一体どうなるのか。映画内で説明される事はもちろん無く、唐突に物語は終幕を迎える。

狭い牧場の柵の中で激しく動き回る馬を写しながら突然のスタッフロール。少しよそ見をした隙に物語が終わってしまった。しまったと、とても後悔した。



また凄い映画を見てしまった。人にはお勧めできない映画だったけど、近い未来にカルト映画と言われる代物の様に思う。この短さとコアな作りは、布教のしやすさに繋がり、また刺さる人にはよく刺さる鋭利さを持っている。そして見ていて、どんな属性の人であれ、他人に重たい感情を抱いた瞬間ドラマになるだなって改めて思った。ぶっちゃけノリはわりとゴールデンカムイとかに近しい感じがする。ゲイの要素とかも抜きにして。シルバの板挟みになっている激重感情と、どこまでもハードボイルドに徹して結果1人負けする事になったジェイク。彼らは最終的にどのような関係性に落ち着くのか。愛憎の決着は。やっぱショートフィルムだから、これ以上の続きが見れないのは残念だけど、ある意味で凄くリアルさ感じた。また2人の対比が綺麗なコントラストになっていて、それが結末まで維持されていた。これ以上描くと、このコントラストが崩れてしまったと思う。対比にならなくなるから。このバランス感は流石としか言えない。

良かったらチェックしてみて欲しい。



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毎週金曜19時更新。 目に留まった創作物にレビューを書きます。批評家では無いので、凝った事は書きません。文章は硬いめだけど、方針はゆるゆるです。よろしくです。

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