独断と偏見とちょっとしたスパイス 84
木原不動尊 (雁回山 長寿寺)春季大祭
─日本三大不動尊の荒行─
木原不動尊 本堂
2月28日、私は有給を使ってある場所へと向かった。
熊本県熊本市南区富合町にある長寿寺。
一般的には木原不動尊(きわらと読む)の通称で知られている天台宗の寺だ。
以後通称の木原不動尊に統一する。
今回初めて知ったのだが、千葉県の成田にある成田山新勝寺の成田不動尊と、東京都目黒区にある龍泉寺の目黒不動尊と合わせて日本三大不動尊の一角を担っているという。また興味深い点としては、方牛の足跡が残っているという事。方牛は江戸時代中期頃に熊本市内を中心に通称放牛地蔵と言われる地蔵を立てて回り無礼打ちで死んだ父を弔い続けた(飢餓等の社会情勢によるものとの説もある。)話が残る僧。彼が作った石仏が寺に残っているという。
「このお寺では毎年2月の28日には荒行を行い、火の上を歩くなどの厳しい修行を行っている。」という話は聞いていた。是非とも一度は行ってみたいと思い、実際に行ってみる事にした。こういうエキゾチックな日本カルチャーって受け身だと地方でも体験できなくなったよね。だからこその体験。行く価値を感じた。
臨時駐車場もあるとの事だったが、駐車場は埋まる可能性も考慮し宇土駅から熊本バスの臨時シャトルバスで向かうルートを取る。荒行は午前の部(午前10時)と午後の部(午後1時)の計2回行われている。朝だらだらしていたので、遅れてしまい宇土駅に着いたのが10時半ぐらい。
自分の怠惰のせいもあり、彩灯大護摩供(さいとうおおぼまく)と言われる神事は見学できなかった。みんなの早起きしようね。
宇土駅ロータリーには臨時のバス停が出来ていた。人はまばらで数人いる程度。係員の人も常駐していたが、とてもけだるそうにしている。
一時待っているとシャトルバスの前に通常の路線バスの方が先に到着したのでそちらに乗る。車の流れも普段通り、時に大きな違いも無く、本当にイベントがやっているのか疑問に感じた。花火が打ちあがる夏祭りと違って交通に大きな変化は無く道は空いていた。
それも現地に着いた瞬間形相が変わってきた。疎らながらも通りに人が歩いている。数は少ないが、お祭りの様に屋台も出ている。
寺へと向かう道にはまばらながらも屋台が出店していた。
個人的に大宰府の名物・梅ヶ枝餅が出店には驚いた。
お寺に入ると、太鼓の音と念仏が聞こえてくる。
お寺の一角にこの様な仕切りがされていて、修験者の動きを参拝者達は見守っていた。
会場にはざっと200人ぐらいだろうか。人が歩くには不自由しないぐらいな感じ。
仕切りの内側、本殿側の方には神棚と不動明王の絵が飾られている。中央には(上記写真の左側)焦げたお椀状の鍋の様な物が2メートル以上高く掲げられ、それを焦げた丸太が三本足で支えている。右側には火が焚かれ、その上で鍋がぐつぐつと煮立っている。この鍋で笹を煮て、笹に付いた熱湯を参拝者にかける荒行・湯立て、湯浴びに使われる。
修験者は計6人。内老婆は2人いた。尼さんだろうか。
「日本文化」というと昨今はポップカルチャーにあまりに振り切れ過ぎているが、こういう伝統的宗教による儀式的なカルチャーもまた日本の一側面だと思う。自分は今までこういったカルチャーに触れる機会が少なかったからとても印象深い経験をさせていただいた。実際日本で在住する地域との地縁の無い人間が参加できる宗教的儀式って実はかなり限られているし、現在社会の生活サイクル的に参加しにくい側面もある。こんなディープな日本文化に触れる機会が巡ってくるとは思わなかった。
参拝者も任意で「火渡り」に参加する事ができる。午前の部の様子。
「湯立ち」、「湯浴び」の準備をしている。
修験者はこれを周りで見物する参拝者達にお湯をかける。やけどするほどでは無いが、一瞬とても熱かった。参拝者の歓声とカメラ愛好者達の慌てふためく様が印象的。
午後の部の始まり。最前列から見学する事ができた。
お昼ご飯は木の木陰で屋台で買ったお好み焼きを食べる。700円。
とりあえず自分は13時から行われる午後の部から本格的に参加する事にした。結局イベントはどれだけ受動的に参加できるかどうかなのだから。
字が汚い人にも種類があるが、これはとてもバランスが悪い最悪の字。
これは「護摩木」(ごまき)と言われるもの。これに願い事を描き祈願する。表には願い事を描き、裏には性別、名前、年齢を書く。願い事については、テーブルに書かれた願い事の種類の中から選んで書く様になっている。私みたいに一つしか書かない人もいれば、複数書く人もいる。ちなみに「開運長久」(かいうんちょうきゅう)とは、「運が開くように。」願う事。これらの護摩木は儀式中には薪として燃やされる。1本500円。
儀式が始まると上の写真の右側にいる男性が小太刀の上に先ほどの護摩木を乗せ、
火に向けて護摩木を飛ばしている。
念仏と燃えゆく夢。
修験者の方々が素足で火の上を歩いていく様子。さすがだね。
燃やされた護摩木の灰を竹で叩いて角を取り、参拝者が歩く時に痛くないようにしている。
作業は凄く念入りに。
高僧による念仏。
配色で偉さが何となくわかる。
自分もいざ荒行。
高僧達の念仏も終わると。希望する参拝者で火渡りが行われた。100人近く整列し、各々があの灰の上を歩いた。まだ隅の方は炎がメラメラしていて、とても熱そうで恐怖の感情が炭酸の泡の様にプクプクを沸いている。「やっぱ足の裏やけどしたら歩けるのかな。」という疑問が頭から離れない。仕事とかって立ち仕事だから特に。近くの人の「後の方が熱くない。」っていう会話を聞いて、少し遅めに行く。木のすみに参加者が靴と靴下を脱いで置いていたので自分もそれに倣った。白い靴下を履いていた自分を恨んだ。ズボンが焼けないように裾も挙げる。境内は砂利が敷き詰められていてとにかく痛い。健康マットと同じぐらいの痛さ。ちなみに火渡りをする事で前年の厄を落として、新しい年を迎えるという意味があるという。まあ早い話が初詣とかに近い行事。ドキドキとプレッシャーを抱えながらその時を待った。参加者は高齢者が多い一方で外国人や、刺青の入ったいかついお父さんの家族連れ、地雷系?みたいなファッションのカップルなんかもいて、割と幅広い。火渡りを行う前に念仏を唱えられ、修験者さんの指導の元に歩いた。
やけどするほど熱くないが、熱量を感じる。多分灰の上でじっとしていたらやけどすると思う。実際介保している修験者の方からは立ち止まらずに歩くように指導が入る。さっと駆け足で歩いて、初めての荒行は終わった。神棚で不動明王にお参りをすると、寺の職員さんから御洗米を頂く。
紙に包まれた御精米
その後また湯立ち、湯浴びが行われた。お湯を浴びたい高齢の参拝者達の熱狂的な声が印象的。こっちにもお湯をかけろって、そんな具合。こういうのを見ると高齢者って古き時代の日本文化の守り手なんだなって思った。あの熱狂的な参拝者達が亡くなった頃。この祭りも、このディープな日本文化もどのようになるのかなって、薄ら寒いものを覚えた。文化の断裂って悲しいよね。古い日本文化って割と今の感覚だと意味不明な事も多いし、祭礼には時間もコストもかかる。資本主義全盛期の今、こういうカルチャーはどれだけ維持できるだろうか。もしもこういう祭礼が終わってしまったら、日本文化は分かりやすいポップカルチャーや比較的お金になる文化しか残らない国になってしまうのかなって思った。
湯浴びで使われた笹は縁起物だという。儀式が終わると、参拝者達に配られる。玄関や仏壇に飾るとの良いとの事で、参拝者達は我も我もと争奪戦になっていた。こういう縁起物のカルチャーも後どれだけ残されるのだろうか。
そして祭りは終わった。地元の消防団の方々が片付けに入る。湯浴びに使われた笹以外にも、敷地を区切る目的で使われた笹もまた縁起物の様で、これもまた争奪戦になっていた。帰りに寺を門をくぐる時、寺に向けて手を合わせる参拝者に日本の目に見えない信仰心を見た。日本の宗教って基本的に恰好の制限が少ないから、伝統的な信仰心ってこういう場でないと解らない。
お祭りでは地元企業の出店もあった。こちらは県北の酒造メーカー・千代の園の日本酒「朱盃」をお土産に買ってみる。千代の園と言えば甘いイメージがあったから、キリっとした辛口だったのは意外だった。リピしたくなるほど美味しい。
木原不動尊前の六地蔵
帰りに周りを探索すると、木原不動尊前には六地蔵があった。六地蔵は中世にかけて交通の要所に置かれた石灯篭で、旅人達の無事を祈願したものだという。六地蔵がある場所は古来から延々と残った道だと考えていいだろう。旧来のカルチャーが消えゆく時代。伝統的な地域信仰とどう向き合うのか。考える局面に来ている様に思う。
日本の伝統的宗教に由来する祭りに参加できて光栄だった。日本文化って今は特に分かりやすいカルチャーばかりフューチャーされてしまい、高齢者がかろうじて支えている文化は蔑ろにされている。結局は現代社会と伝統文化との相性の悪さに起因しているのだけど、色々と考えさせられるものがあったです。それはさておき、一見サディスト的なカルチャーなんだけど、儀式を通して身を清めるって経験自体あまり宗教との関わりが少なかったからこそ新鮮に感じたし、大乗仏教の世界観に触れる珍しい機会でもあった。縁は少ないだけに、ある意味で異国文化に触れたような気分すら感じている。とてもいい経験をさせて頂いた。感謝したい。
茶道や書道の様に分かりやすくて外国人受けの良い伝統文化だけでは無く、地域住民に愛されたディープな日本文化を、今だからこそ体験して、改めて日本文化について考えてみませんか。少なくとも私にはとてもいい経験が出来たと思います。
木原不動尊(雁回山長寿寺)
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臨時駐車場あり。
熊本バスよりサクラマチ交通センター発の臨時バスと、宇土駅発の臨時シャトルバスがあります。詳しくは熊本バスまでお問い合わせ下さい。
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