世の中の創作物にあーだこーだ言う。
『独断と偏見とちょっとしたスパイス』
第12回は、「手からビーム」から広がっていく世界観とライバルとの闘いの行方を刮目せよ。
『真剣勝負!』
※今回のレビューにはネタバレがあります。ご注意を。
今は亡きソノラマ文庫が実は好きだ。
『海賊船ウォースパイト号』を読んで以来、このレーベルを見つけ次第買うようにしている。
イラスト絵は古臭いし、内容も昔の少年漫画みたいなノリなんだけど、
でもそんなレトロな感じのお話に浸りたい時だってある。
もちろん今は新品はもう買うことができないから、わりと古い感じの古本屋さんに行ったら探している。
まれにブックオフの100円文庫コーナーにあったりもする。
ただ、多くの本がその価値を失っている現状、古本屋から消える日もそう遠くないかもしれない。
こんな商業的な価値を失ったラノベを「マンガ図書館Z」等で、
もっともっと多く残せれたらいいなって思う。
「連ちゃんパパ」みたいに、当時は日の目を見なかった作品にもまたスポットライトが当たると嬉しい。
さて、今回書いていく『真剣勝負!』は、
高校生空手大会団体の部にて助っ人として大将を任された中国拳法を学ぶ主人公・電光寺数馬が、
積年のライバルで二枚目の風早涼一との決戦で、突然手からビームを出してしまう所が物語スタート。
哀れ風早は体育館の端の壁まで飛ばされひん死の重症を負う。
大会はご破綻になり、試合は滅茶苦茶。
挙句の果てには、好きだったアイドルからも罵倒される始末。
その後、夢破れた空手部からはリンチされるは、ビームを出してしまった事で学校中から怖がられるはで、
踏んだり蹴ったりなんだけど、そんな電光寺はあくまでも前向きにこの力の正体と探る。
そこには、古代文明と「バベルの塔」伝説が関わっていて……。
この力の正体とは?
風早涼一との闘いの行方は…。
という訳で『真剣勝負!』。
発売は2001年。
何と言うノリが古い。サブキャラもヒロインもライバルも、みんな古い。
少年サンデーで昔連載してそうな感じがする。
2001年というとわりと最近な気もするけれど、やっぱりあれからもう19年が経過しているという事に気が付いた。
平成も終わった。今は令和だ。物語も流行り廃りもある。
大人よりも変化の激しい子供の世界を垣間見る光景だ。
ただこの小説をただ「古臭い」という言葉だけで片付けてはいけない。
熱いバトルとガンガン広がっていく世界観。そしてこの物語の結末。何て言っても面白いだから。
雰囲気はどことなく藤田和日郎先生みたいなノリ。
この作品自体が結構漫画的なノリなんだけど、どことなく似ているだよね。
主人公がやたら傷を負いながらも、そんな逆行の中で貫く信念。
熱いライバルとのバトル。謎の中華拳法。バベルの塔伝説……。
『からくりサーカス』とかが好きなら結構ハマりそうな予感がする。
玉石混交なラノベ界において、この文章力の高さが光る。
あまり名が売れていない新人賞を受賞した作家さんって時折地雷がある。残念ながら。
文章が無個性だったり、構成に難があったり。
単純につまらなかったり……。
この作者さんはおそらく今まで多くの文章を書いてきたのだろう。
構成は漫画的で、いい意味で癖のある文体がまたいい。とてもいい。
物語も、またいい。
古代文明やら、魔術師やらで能力バトル物へと移行する。
どんどん広がっていく風呂敷。新たなる謎。
何をともかく物語を完結させないいけないのに、これは物語は収拾がつくのか。それとも投げるのか。
投げた。謎が残ったまま物語を終わらせた。
結局残ってしまった謎はいくつもある。
多分、明かされる事はもうないだろう。
しかし、その替わりに風早涼一との決着。という形でキチンと物語を終わらせた。
このバトルがいいんだよ。 バベルの力に目覚め、空間の中に日本刀を生み出す力を得てしまった風早。
電光寺に対する潜在的な恐怖が、ついにこの力を目覚めさせた。
闘いは殺し合いか?いや、喧嘩だ。命がけの喧嘩。
お互い強力な能力を持った宿命のライバルとの闘いは、最後は拳と拳のぶつかり合い。
熱い。
無難な結末ではあった。
「俺たちの戦いはこれからだ。」ENDだし。
でも、物語をちゃんと見せ場を作って終わらせた。
あわよくばシリーズ化。続編決定を狙って、あの結末にしたのかと穿った見方もできるが、
ちゃんと上手くまとめた作品になったと思う。
その古臭さは否めないが、消費されては消えていくエンタメ作品の一つにはしたくない。あまりにも惜しい。
本当は続編も読みたいのが本音だけど、調べても『真剣勝負!』の続編が見当たらないのが残念だ。
こういった商業価値が無いラノベをもっともっと公式で配信できればいいなって思うのだけど、
それが中々難しいという現実があるのだろうか。
個人的には一途で真面目な後輩系ヒロインの姫島すばる。結構好き。
もしも手に取る機会があるならばぜひ読んでみてほしい。面白いから。
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