世の中の創作物にあーだこーだ言う。
『独断と偏見とちょっとしたスパイス』
第13回は、無機質な日常の中で自分と向き合った高校生達の青春。
『のぼる小寺さん』
学校生活って社会人生活よりも無機質なものだと思う。
確かに文化祭、体育祭、修学旅行とかいっぱいイベントがある。
社会人の場合イベントって自分自身が主体的に動かないと、ただ惰性の毎日になってしまうから、
今思うとああやって何もしなくてもイベントがやってくる日常もいいなって思う。
ただ好きでやっているよりも、どうしてもやらされている感があって、やっぱり楽しめない子がでてくる。
それ自体は仕方がない事なんだけど、カリキュラムに則り粛々と過ごす毎日ってとても無機質だ。
結局学校って、どれだけ主体的に動けるか、動けないかで楽しさが変わってくるだよね。
動ける子と動けない子の差が、社会に出てからの差にもなっている印象もうける。
学校生活という長い経験にその後の人生を引っ張られる人って想像以上に多い。
さて『のぼる小寺さん』はそんな無機質な高校生達の日常が、
ボルダリング部の奇人・小寺さんとの出会いを通して、前向きに自分と向き合っていく青春群像劇だ。
舞台は地方の高校。
体育館の中でボルダリングが出来るようになっていて、ちょっとすごい。
そんな高校でクラスメイトからも変人扱いされているのが、タイトルの小寺さん。
無頓着で回りの評価を気にしないタイプ。無頓着だけど、人付き合いはまあ出来る。
ヤマケイ文庫で出てくるようなアルピニストってこんな感じかな。
夢はクライマーで、その夢に向かってボルダリング部の活動を黙々と頑張っているヒロイン。
そんな彼女に一目ぼれしたのが卓球部の近藤くん。いちを主人公かな。
無気力気味であまり感情を表現するのが苦手なタイプなんだけど、性格自体は温厚でいい人。
小寺さんの事が好きでボルダリング部に入部した根暗だけど頑張り屋の四条くん。
カメラが好きで、実は密かに小寺さんを隠し撮りしていたありかさん。
毎日に退屈していいたギャルで、ロッククライム中の小寺さんに出会ってから変わった梨乃さん。
そんな小寺さんを中心に、小寺さんと出会った人たちが前向きに成長していく。
成長ってさ。人に促されてしていくものだけど、
その一方で自分自身と向き合ってやっと本当の意味で成長なんだって思う。
人から怒鳴られながらの成長って、その空間に順応しただけで成長とはまた違う。
結局怒鳴られないように怒鳴られように行動する事と、
自分から考えて行動できるという事には大きな違いがある。
そう言った意味でさ。この映画の子達は、
自分で気づいて、自分と向き合って、そして成長する。
そんな彼ら彼女らの姿に、見ていて少し焼きもち焼いてしまったね。
「成長」や「努力」、「夢」って言葉が凄く嫌いで、とにかく嫌だったのだけど、
もうちょっと自分本位になって自分と向き合うべきだったなって思う。
10代の時にこの事に気が付くべきだった。
映画自体の雰囲気は松山ケンイチ主演の『聖の青春』ぽい感じ。
とにかく地味で淡々としていて、ドラマチックとは無縁の映画で、劇的な展開は無い。
ただ、不思議と退屈しないだよね。むしろ日常ってこんなにも無機質だよね。
結局毎日ってそんなに変化がある訳でも無く、ただただ同じ事の繰り返し。
自分で変化を加えないと、ただの惰性になってしまう。
そんな無機質な感じが、リアルに感じて好きだった。
終盤の場面で小寺さんがボルダリングの大会で苦戦している姿を見て、
小寺さんがみんなから応援されるシーンがまた良かった。
相手を応援する事も、逆にされる事も。
今ではあまり無い事だと気づいた。
身近な人程あまり応援しなくなっていたんだなって、そう気づかされた。
もっともっと周りにそんな声をかけてもいいのかなって。
それだけ人との関わりが少しずつまた希薄になってしまったのか。って考えていた。
純粋に相手の事を思いながら応援するって、見ていて気持ちがいいね。
個人的に好きな場面は、近藤くんが真面目に練習して卓球の大会でベスト8まで残り、
それを部活を真面目にやらない友達が褒めながら伸ばした手に握手しなかったシーン。
真面目にやらない友達に対する怒りを示した場面だったのかなって思う。
近藤くんって感情の表現があまり得意ではないからこそ、あの対応は意外だった。
そうそう忘れてはいけない2人。
ボルダリング部の部長と先輩コンビがまたいいキャラしているだよね。
場のメリハリを意識した先輩達で、部活中は厳しくても、終わったらとても優しい。
あんな先輩って憧れる。あんなかっこいい先輩になりたかった。
……映画の公式ホームページのキャスト欄に先輩達が載っていないのは不満要素。
あんだけ出番あったのに、あんまりだ。
フェチ的なカメラワークや絵を感じた。
アニメっぽいのかな。ちょっとしたサービスショットというか、何ていうか……。
時々カメラワークが、少年マガジンのグラビアぽく見える。健康的なグラビア。
それが良いの悪いのはここでは言わない。フェチを感じた。
ただあのラストカット。凄く良かった。
残念だったのは、近藤くんの卓球の下手さ。
役者さんはもの凄く頑張っていた。でも、やっぱり卓球のシーンはちょっと酷い。
あれで県大会ベスト8。というのは萎える。
卓球初めて2か月の新入部員って感じでさ。フォアハンドのフォームが汚い。
そして、近藤くんの相手役の人がフォーム綺麗で卓球上手かったから余計引っかかる。
何かもっといい方法なかったのかなって思う。
スポーツ物の実写ドラマでこういう事言うの野暮だし、そもそも大筋の話ではないけれど、
やっぱり引っかかる。引っかかる。
青春物ってたまにきついだよね。
部活物だと大体目標インターハイと高かったり、天才が居たりしてさ。逆に共感しにくいから。
恋愛ものも一緒。あんまり動かない学校生活を追っていたから、違う世界を見ているって感じ。
キラキラし過ぎて。なんか眩しすぎて。あ、無理って思う瞬間がある。
バランスが良かっただと思う。
リアルとフィクションのバランスが。
あの無機質なリアルな日常の中に小寺さんがいて、前向きになっていく。変わっていく。成長していく。
中々そんな出会いなんて無いし、自分を変える経験って基本的に起こらないけどさ。
そんなフィクションが良い味になっていたんじゃないのかな。
0 件のコメント:
コメントを投稿