砂糖の世界史 川北稔  ─甘い砂糖の光と影─

2022年7月15日金曜日

岩波ジュニア新書 岩波書店 川北稔 読書 歴史書

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 独断と偏見とちょっとしたスパイス


第23回は、甘い砂糖の光と影。砂糖を巡る知的冒険の旅へと出発しよう。



砂糖の世界史


          公式サイトより引用

https://www.iwanami.co.jp/book/b269075.html




私は昔からさとうきびをかじりたかった。


小さい頃の私は甘い物に飢えていた。

そして、そんな時に笹みたいな太い茎を刃物で切って、

硬そうなさとうきびをがじがじと食べる様子をテレビで見て、

何となく美味しそうに見えたんだ。


甘いというのが想像できない見た目でも、

かじって食べれるぐらい甘いというギャップ。

そして何より甘いという事。


それが今でも心に残っているの理由だと思う。


今見ると、さとうきびなんてそんなに美味しいものではないだろう。

でもいつか。さとうきびをかじってみたい。



さて今回は岩波書店にて出版されている。

「岩波ジュニア新書 砂糖の世界史」についてまとめていこうと思う。


この本において砂糖は「世界商品」という扱いがされている。

この世界商品というのは、文字通り地球上全ての土地で売れる商品の事だ。

今だと「石油」や「車」、「スマホ」なんかも入るだろう。

世界中で需要のある物。それこそが「世界商品」だ。


そんな「世界商品」たる砂糖に注目し、

砂糖がもたらした様々な事柄を通して、扇状に話を広げていく。

砂糖を通して歴史、政治、文化に一体どのような影響があったのか。

例えばカリブ地域のプランテーションが推し進めたモノカルチャー経済。

イギリスの産業革命と砂糖の関係。と言った歴史の側面や、

砂糖を使った製品。チョコレートやコーヒー、紅茶。

またそれを出すコーヒーハウスという文化がイギリスに何を残したのか。

そして、産業革命が奴隷経済をどのように終わらせたのか。

その政治的背景に至った原因について。


等々、

ヨーロッパを中心に砂糖がどのような働きをしたのか。

という話題を通して、「世界商品」について学ぶ。

これがこの本の目的だ。


そして、砂糖の話は数珠繋ぎの様に繋がっていく。


先ほども書いた通り、砂糖の話から砂糖を使った製品。

紅茶やチョコレート、コーヒーの話や、

それを作れる程に世界にその交易圏を広げたイギリス国内の政治と、

アメリカの独立運動へと至った背景にまで、

話は砂糖から脱線しながらも、

マクロ的視点で砂糖から始まった様々な動きについて書いてある。


物を通して世界的な視点から各地の歴史とリンクさせる。

という発想はとてもダイナミックで面白い。

日本史近世だと、鎖国体制もあって世界の中の日本という視点に乏しくなる。

こうやって一つの物を通して世界や日本にどのような力が作用したのか。

もっと広い視点から歴史を見る楽しさについて学ぶいいきっかけになった。




「ジュニア」の通り子供向けレーベルの本だが、その看板には偽りがある。

ジュニアと聞くと中学生ぐらいかなって印象なんだけど、

中学生の頃の私にはこの本は難解だったと思う。

ちなみに当時の私は火の鳥伝記文庫や児童書なんかを読んでました。


今でこそスマホという最強の電子辞書があるからいいけど、

一通りの世界史の概観ぐらいは掴んでいないと内容的に厳しい。


高校生だと学力に応じてって感じ。

私は……。正直まともに読めたのか怪しいライン……。 


ただでさえ岩波書店って買切制度だから

都市部の大型書店にしか取り扱って無いし、

読者層もインテリ向けの本を多く出版している。


この本を子供に買い与える親ってどんな人なんだろうとか、

この本を読む子供ってどんな子なんだろうとか、

色々考えてしまった。



ただ、学問を学ぶという事は背伸びし続けるという事だと思う。

背伸びする為に敢えて難しい本に挑戦する。あえて難しい学問に挑戦する。

本当は理解したかどうかはさておき、そういう姿勢が大事はだよねって、

気づかされる機会が最近あったから否定はできない。


そんな事も含め、岩波書店のレベルの高さを感じた。



ちなみに大人目線で読むと、

情報量がいい塩梅なのですごく読みやすい。


歴史系新書でありがちなのが、情報過多な位に文章を羅列させた結果、

理解が進まず、単純に読み物としても面白くない。

そんな本に出くわす事もあるが、


この本は情報量こそ一般的な新書には劣るが、

幅広い話題を通して、様々な知識をもたらしてくれる。


まさに知的冒険と言ってもいいだろう。


内容的に大航海時代から産業革命についての記述が多く、

砂糖の負の側面についてフォーカスされている。


興味深い話として、

規則正しい集団生活を行っているプランテーションの奴隷達が、

産業革命期の労働者よりも早く、

時間を守り集団で働く近代的な労働スタイルを行っていた事。


プランテーションの奴隷達が、

最初に現代的な労働を行っている先駆者というのは皮肉が過ぎるように思う。


一方でカルチャーとしての砂糖についての記述が少なめだったのが残念だ。

例えば、大衆の中で砂糖が一体どのような料理へと変わったのか。

と言ったサブカルチャー的側面からのアプローチが欲しかった。




もうジュニア向けと侮れないと思った。

新書によっては、その情報量故に読むのが億劫になる本がいくつもあったが、

この本は、ジュニア向け故に情報量を抑えた結果、

普通に読みやすい本に仕上がっている。


そして、シンプルなテーマを広い間口で語る知識に富んだ内容は

まさに知的冒険の旅と言っていいだろう。


これから夏にかけて様々なキャンペーンで盛り上がる書店だが、

良かったこの本も手に取って読んでみて欲しい。


最後に2か所だけ引用して、このレビューを終わりたいと思う。


  この よう に、 モノ を つうじ て 歴史 を みる こと で、 どんな こと が わかる の でしょ う か。 大事 な こと が 二つ あり ます。 ひとつ は、 そう する こと によって、 各地 の 人びと の 生活 の 具体的 な 姿 が わかり ます。 人びと が 何 を 食べ、 何 を 着 て い て、 どんな ところ に 住ん で い た のか。 どんな こと を うれしい と 思い、 どんな こと に 涙し た のか。 そうした 具体的 な 生活 の 局面 が わから なけれ ば、 私 たち は、 その 時代、 その 地域 の 人びと と 共感 し あう こと が でき ませ ん。 歴史 を 勉強 する 大きな 目的 の ひとつ は、 そうした 共感 を 得る こと なの です から、 この こと は たいへん 重要 なの です。

川北 稔. 砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書) (p.179). 株式会社 岩波書店. Kindle 版. 


モノ から み た 歴史 の もう ひとつ の 特徴 は、 世界的 な つながり が ひと目 で わかる という こと です。 とくに「 世界 商品」 の 場合 は、 まさしく 世界 に 通用 し た 商品 です から、 その 生産 から 消費 までの 過程 を 追う こと で、 世界 各地 の 相互 の つながり が みえる の です。

川北 稔. 砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書) (p.180). 株式会社 岩波書店. Kindle 版. 


商品を通してみる歴史を見るという視点は、

「日本近世の幕藩体制における交易において、

とても面白い事が解るのではないか。」

と、新しい刺激をもらう。


また交易品の歴史を学ぶ意義について、

とても簡素にまとめた優れた答えの一つだと思う。


歴史の学ぶ意義について、私ははっきりとした答えが未だだせないが、

これは一つの正解のあり方だろう。



公式サイト

https://www.iwanami.co.jp/book/b269075.html



ここまで読んでいただきありがとうございました。

また来週、お会いしましょう。


自己紹介

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毎週金曜19時更新。 目に留まった創作物にレビューを書きます。批評家では無いので、凝った事は書きません。文章は硬いめだけど、方針はゆるゆるです。よろしくです。

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