死にぞこないの青 乙一  ─生々しい現実と勇気の物語─

2022年9月9日金曜日

乙一 幻冬舎 幻冬舎文庫 読書

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 独断と偏見とちょっとしたスパイス 31回

 

死にぞこないの青 乙一  

─生々しい現実と勇気の物語─


公式サイトより引用
https://www.gentosha.co.jp/book/b2894.html


舞台は、全校生徒200人ぐらいの田舎町の小さな小学校。

作内で「ビックリマンチョコ」が流行っていたりするから、80年代ぐらいか。


それ以外にも「コミックボンボン」が登場したり、
会話の中に初代マリオの裏技に関する話があったり、

所々に時代を感じる描写がある。
コミックボンボンとか懐かしすぎるやろ。コロコロ派だったけど。

主人公は、小学5年生に進級した主人公のマサオくん。

内気で運動神経はあまり良くないけれどちゃんと友達もいて、
おもちゃやゲームの話で盛り上がる、典型的な小学生だ。

そんなクラスの新しい担任の先生は羽田先生。
新卒で教職に就いた先生で、こちらも典型的な人気者タイプ

サッカーを元々やっていただけに運動神経も抜群。
容姿端麗で、情熱もある。保護者からも好かれるタイプ。

最初はその明るいキャラクターで、全員の生徒からも慕われた先生。

しかし若さゆえの情熱からか、行き過ぎた指導を行ってしまい、
クラスから不満の声が上がってきてしまう。


その声に対して先生が行った事。

それはちょっとした連絡ミスから、
同級生とトラブルを起こしたマサオくんをスケープゴートにして、
全てのトラブルは全部マサオくんの仕業にするし、
マサオくんの些細な行動のすべてを叱るというもの。

結果、クラス全員のヘイトをマサオくんに集める事で、
クラス全体の不満を反らすというもの。


先生は全力でマサオくんに体罰や徹底した人格否定を行い、
クラスメイトや友人もマサオくんと距離を取り始めた。

家族に心配をかけたくなかったから母親には嘘の日常を言っていたし、
クラスメートを恨めなかったマサオくん。

しかし孤独になり、クラスメイトからのいじめも始まった。精神が病み始める。


その頃マサオくんの前に、その光景を見てひどく怒り。そして悲しむ。
青い皮膚、そして異常な姿をした存在、「アオ」が現れた。


そして、いじめがエスカレートし学校の裏で暴力を受けそうになったその時。
「アオ」とマサオくんがついに交じり合う。

口の悪い「アオ」と会話ができる様になったマサオくんは、
「アオ」の持つ暴力性に戸惑いながらいじめっ子を返り討ちにする。

そして「アオ」に導かれるままに、羽田先生との戦いを始めるのだった。





の小説を読んでいると心の古傷が痛む。
私にとって小学生の頃の教師は、恐怖の対象だった。

幼い時の説教や大きな声って耐性が無いから堪える。

そのせいだろうか。
中学、高校と違って小学校の教師だけは、親しみが沸かない。

2度と会いたくないし、
できれば2度と私の前に現れないで欲しいと願っている。


恐怖か。怒りか。それとも逆恨みか。
この感情はなんだろうって、今でも思う。




さて今回は、乙一作『死にぞこないの青を』を取り上げる。


この本を読んでいて『ジョジョの奇妙な冒険』の意識してしまった。
あまりこういうレビューに他の作品を持ち出すのは、ご法度だと思う。

でも、ものすごくのジョジョを思い出す展開だった。
このあらすじ。このタイトルから想像できない展開、そして結末。


この小説の物語は、
現実の辛さ、困難に抗う勇気の物語だったと思う。



序盤からは中盤にかけては、スケープゴートされていく場面が描かれる。

クラスからも孤立し、先生からも詰められる。
少しずつ鬱状態になっていくマサオくんの描写がリアルで、辛い。
そこも中々の見どころなんだけど、トラウマ抱えている人は
フラッシュバックしそうな気すらする。

友達との楽しい会話シーンもページをめくる事に減っていく。

でも、元々付き合いがあったクラスメートたちを恨めないし、
家族に心配をかけない為に必死に我慢するマサオくんの健気さが切ない。



そして物語は後半。
ボロボロになったマサオくんの前に現れた「アオ」。

そのデザインは、
髪の毛の無い頭、青い皮膚、傷だらけの顔、接着剤で止められた右目、
靴ひもで縫われた開けない口、上は拘束服、下はブリーフ。
か細い両足。

ジョジョで登場しそうなスタンドのデザイン。

※スタンドは特殊能力(一部例外あり)を持った守護霊みたいなもの。
 基本はしゃべらないのだけど、しゃべるスタンドもある。


「アオ」の性格はギャングみたいに粗暴。
羽田先生を殺害するようにマサオくんをそそのかすし、言葉遣いも荒い。
一方でマサオくんの姿を見て悲しみ、怒る。
そして、鬱状態だった彼に誇りを取り戻す道を指した。

「アオ」はマサオくんの最後の味方として、
マサオくんの危機に対して、最適なアドバイスをする。


一方でマサオくんは「アオ」の言う事を正しいと思う反面、
彼に流されてしまうと自分は最悪の道に進んでしまうと直感した。

暴力や戦う事に対する恐怖。
「アオ」に対する葛藤を抱えるマサオくん。
しかし、羽田先生の振る舞いについにマサオくんも我慢の限界を迎える。



「覚悟」を決めたマサオくん。
アオ」の言う通りに羽田先生を殺害するべく、
先生の住むアパートへと侵入する。

そんなマサオくんの行動に驚き、そして内心恐怖を抱いていた羽田先生。

元々パラノイアって感じだったけど、
パラノイアがさらに悪化して、ついに先生はマサオくん殺害を決める。


そして、殺すか殺されるか。
マサオくんと羽田先生の最後の戦いが始まる。


戦いの最終局面で「アオ」の言った。
決断というのはこういうことだ」ってセリフが凄く好き。


ジョジョのセリフ「あしたっていまさッ!」ってセリフを思い出した。


臆病な所があったマサオくんが戦いで見せた勇気。
それを象徴したセリフだと思う。



さて、

羽田先生との決着は。
「アオ」の正体は。

そして、マサオくんは誇りと日常を取り戻せたか。

是非、これは読んで欲しいと思う。




々しくも、現実的な描写が暗く重たい。

精神がすり減らし鬱状態にまで追い詰められた主人公。
そんな彼が辛い現実と抗い、誇りを取り戻す。

「熱い。」というにはあまりにも生々しい話ながら、
一方で、これもまた勇気の物語なんだと思う。


彼らしい結末と、余韻の残るラスト。

私は好き。



ページ数も200ページ弱とサクッと読めるし、
良かったらぜひとも読んで欲しいと思います。


公式サイト
https://www.gentosha.co.jp/book/b2894.html



来週はこちらの作品を取り上げます。

クレージーフードトラック 大柿ロクロウ 
─砂にまみれた世界を2人は駆け抜けた─


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